会社が送金詐欺に遭った場合は、従業員に損害賠償を請求できるか?

前号では、会社が如何に送金詐欺を防止するかについて説明した。実務において、万が一会社が送金詐欺に遭った場合、詐欺加害者に法律責任を追及して賠償させることは難しい。そのような場合に、「従業員に業務上の手抜かりがあったため、会社が送金詐欺に遭った。従業員に賠償させよう。」と思い込む会社もある。

従業員に損害賠償を主張できるか?出来るならば、どれぐらいの損害賠償を主張できるか?

一部の会社は、労働紛争を理由に従業員に損害賠償を主張する。しかし、『賃金支払暫定規定』第16条には、「労働者本人の原因により使用者に経済的損失をもたらした場合は、使用者は労働契約の約定に従い当該労働者に対し賠償を要求することができる。……」と規定しているため、一部の裁判所は当該規定を根拠とし、「従業員に損害賠償責任がない」という判決を下している(例えば、(2019)浙0110民初8669号)。従って、「労働者本人の原因」という規定の適用による不利な結果を防ぐため、財産損害賠償紛争として従業員に損害賠償を主張するほうがベターだと思われる。例えば、(2019)粤03民終7501号事件において、裁判所から「従業員が70%の責任を負い、会社に150余万元を賠償する」と判決が下された。このことからも、訴訟理由の選定が大切と感じられる。

但し、適切な訴訟理由はあくまでも半分成功したということに過ぎず、判決でどれぐらいの損害賠償を取得できるかが会社の関心事となる。権利侵害訴訟において、通常、権利侵害者の過失及びその程度によって賠償金額を確定する。過失の程度は、従業員の重大な過失の有無及び会社の過失の有無の要素によって判断する。先ずは、従業員の重大な過失の有無については、主に以下の3つの要素を考慮する。①従業員の職務、具体的に言えば、権限や職務を超えた行動の有無。②従業員が制度や規則(社内財務管理制度など)を遵守したか否か。③詐欺を識別する一般人の常識。例えば、(2019)京02民終10315号事件において、裁判所は、「従業員は偽造の社内財務グループチャットに引き入れられ、当該グループチャットにおける明らかに正常でない業務上のやり取りの内容に注意・防備すべきであるにも関わらず、それを怠ったため、過失がある。」と認定した。次に、会社の過失の有無については、通常、裁判所は会社の財務制度、財務審査許可制度及び関連制度の具体的な執行状況に基づき認定する。例えば、(2019)滬01民终14432号事件において、会社が事件発生後に関連制度を公布したため、裁判所は「従業員が損害賠償責任を負わない」と判決を下した。

以上のことから、関連リスクを低減し、会社と従業員が共に損害を被ることを避けるために、会社は合理的かつ完備な財務制度、級別の審査許可権限制度を設置するとともに、従業員のリスク管理教育を確実に行うべきである。