新司法解釈による「ネットショッピング」紛争事件管轄の影響及び対応
最近、蘇州市中級人民法院が下した、ネット通販サイトの「天猫」(ティーモール)に関わるネットショッピング紛争事件の管轄異議についての最終審の裁定は、幅広い関心を集めている。当該事件において、裁判所は、新しく施行される『<中華人民共和国民事訴訟法>適用に関する最高人民法院の解釈』(以下「新司法解釈」という)の関連規定に基づいて、当事者双方が「情報ネットワークにより売買契約を締結し、且つ情報ネットワークにより目的物を引き渡す場合、購入者の住所地を契約の履行場所にする」とし、当該事件は、購入者(原告)所在地の裁判所が審理すると裁定した。
新司法解釈及び関連裁判は多くのマスメディアや消費者から好評を得ている一方、自社のウェブサイト又は第三者のECサービスで製品を販売する企業に鐘を鳴らしている:ネットショッピングの管轄に関連する新規定は企業に対してどのような影響を与えるのか?また企業はいかにして新規定によるリスクと不利益を下げられるのか?
新司法解釈第20条には、「情報ネットワークにより売買契約を締結し、情報ネットワークにより目的物を引き渡す場合、購入者の住所地を契約の履行場所とする。その他の方法により目的物を引き渡す場合は、受取場所を契約の履行場所にする。契約上、履行場所についての約定がある場合は、その約定に従う。」と規定し、ネットショッピングにおいて「被告の住所地」という原則を失くす姿勢を示している。これにより、消費者側にとっては、権利保護に係るコストを下げられ、訴訟も便利になるが、企業にとっては、訴訟件数が増えると共に、提訴地の不確定や訴訟に係るコストの増加などのリスクと不利益がもたらされると思われる。
上述のリスクと不利益を抑制する方法としては、事前に契約履行地又は管轄裁判所を明確に約定しておくことであると考えられる。
但し、具体的な約定を行う際に、下記の問題に注意すべきである。
第一に、書式条項を使う場合は、説明義務を尽くすこと。新司法解釈第31条には、「事業者が書式条項により消費者と管轄合意約款を締結する際、合理的な方式により消費者の注意を喚起しなかった場合、消費者が管轄合意約款の無効を主張すれば、人民法院は消費者の主張を支持する。」と規定している。前述の「天猫」に関わるネットショッピング紛争事件において、裁判所は、「ウェブサイト内の目立つところに表示していない」、且つ「売買契約の締結時に、合理的な方式により買い手の注意を喚起していない」ことを理由に、売り手のウェブサイトに記載されている「紛争は当店所在地の裁判所が管轄する」という条項が無効であると認定した。従って、売り手の説明義務は、下記のいずれかの条件を満たさなければならない:①目立つ、即ち消費者が通常の状況下で確認できること。②明確に提示すること。例えば、オンライン注文書を受け取るときに、カスタマーサービスによりショットメッセージで通知し、且つ買い手の返信を得る。
第二に、管轄裁判所を約定する際に、住所地を特定する必要がある。新司法解釈では、法人又はその他の組織の住所地に対する判断基準を変更し、その第3条には、「法人又はその他の組織(付注:新司法解釈第52条によると、法人の分店支店を含む)の住所地とは、法人又はその他の組織の主たる事業所の所在地を指す。」と規定している。一方、実務において、多くの会社は、登録上の住所と実際の住所が異なり、また各地で複数の分店支店を持つことが多い。従って、管轄上の不確定性を回避するために、約定するとき、住所地を特定することは大切である。
当然、契約の履行地又は管轄裁判所を約定することは、訴訟リスクとコストを下げる一つの方法に過ぎず、訴訟リスクを低減させる抜本的な方法は、やはり製品品質とサービス向上である。