見落としがちな従業員退職時の取扱い

    李さんは退職後、会社から発行された労働関係解除証明書に「解除理由」が記入されていないことに気づいたため、「人員整理」を書き込み、会社に対し不当な労働契約解除による賠償金として1万元を支払うよう労働仲裁委員会に労働仲裁を申し立てた。結果、会社は李さんが自主退職することを十分に証明できなかったため、仲裁機構は李さんの請求を認めた。

    実務において、会社の不適切な退職管理による類似の案例は少なくない。例えば、従業員が退職したときに業務引き継ぎを行わなかったことを理由に、会社は経済補償金の支払いを拒否したが、証拠不足で敗訴となった、または会社が人事ファイルと社会保険関係移転の手続きを適切に行わず、従業員に損害をもたらしたため、損害賠償責任を要求された等。

    『労働契約法』等では、従業員退職時における関連事項の取り扱いについて規定している。『労働契約法』第50条の規定によると、使用者には下記の義務がある:(1)労働契約解除又は終了の証明を発行する;(2)15 日以内に労働者の档案(人事ファイル)及び社会保険関係の移転手続きを行う;(3)経済補償金の支給が必要となった場合は、業務引き継ぎの終了時に支給する。又、『労働契約法実施条例』第24条によると、前述(1)の証明には労働契約の期間、解除日、業務職位及び当該企業における勤務年数を記載しなければならない。

    上述の法律法規の規定に基づき、実務的な経験や教訓を踏まえ、雇用企業は退職管理において、下記の事項に特別な注意を払う必要がある。

    第一に、リスクを回避するために、労働契約解除証明には「労働契約解除の理由」及び経済補償金の関連事項(有れば)を明記すること。

    第二に、業務引き継ぎの管理を強化すること。規則制度において業務引き継ぎの具体的な要求、手続きなどを定め、従業員退職する場合、厳格に執行する。従業員が規定通りに業務引き継ぎ義務を果たさない場合は、経済補償金を暫く支払わなくてよい。

    第三に、退職に関連する文書(退職願、労働契約解除証明、業務引き継ぎの関連文書、出勤表、下記に言及する退職談話記録などを含める)を適切に作成、保管すること。これは『労働契約法』で規定される雇用企業の保管義務である上、証拠保留、発生しうる紛争に対応するための必要手段でもある。

    最後に、退職面談を重視すること。退職面談は使用者によく見落としされる手続きである。実際は、退職面談手続、文書が適切に設けられていれば、『労働契約法』第39条、40条及41条の適用に必要とされる関連証拠(例えば、解除理由の談話録音)の補充としたり、さらに今後発生しうる営業秘密紛争や競業制限紛争に対しても思いもよらない役割を果たすと思われる。