登録商標に類似する標章の使用は必ず他人の商標権を侵害するのか?
最近、登録商標「獅峰」の所有者である浙江省茶葉集団股份有限公司と杭州獅峰茶葉集団股份有限公司との商標権侵害事件は多くの関心を集めている。前者は、後者がネットショップにおいて「獅峰茶葉」、「品獅峰」という字句を使用したり、商品のパッケージ及び袋に「獅峰龍井」という字句を印刷したりするなど、「獅峰」の文字を大々的に宣伝することは商標権侵害に該当すると主張した。後者は、①自社の商号が「獅峰」である、②自社が茶の葉の販売に従事している、③獅峰が茶の葉の産地及び品質を表す通用名称であるなどを理由にして抗弁を行ったそうである。
では、登録商標に類似する標章を使用することは必ず商標権侵害になるか?
『商標法』第57条によると、「商標登録権者の許諾なしに、同一商品にその登録商標と類似する商標を使用し、或いは類似の商品にその登録商標と同様又は類似する商標を使用し、容易に混同を生じさせる場合」は、登録商標専用権を侵害する行為に該当すると規定されている。従って、商標権侵害行為と認められるには、同一の商品に使用するか否かに関わらず、少なくとも以下の二つの要件を具備しなければならない。(1)標章が類似していること;(2)商標として使用されていること。尚、類似の商品に使用する場合は、「容易に混同を生じさせる」という要件をも満たさなければならない。
先ず、標章が類似するかどうかの判断について、『最高人民法院による商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈』第9条第2項、第10条において、基本的な認定基準及び原則を定められている。
次に、「商標として使用する」否かについて、現在、中国では、日本や台湾等のように「商標的使用」という概念を採用していない。『商標法』第58条の規定によると、他人の登録商標を企業名称に使用して公衆を混乱させ、不正競争行為となった場合は、『不正競争防止法』に照らして処理される。一方、『商標法実施条例』第76条では、同一又は類似の商品に、他人の登録商標と類似する標章を商品名又は外観装飾として使用し、公衆の誤解を生じさせた場合は、商標法で規定される登録商標の専用権を侵害する行為と見なす、と規定している。これは、商標として使用するわけでないものの、公衆の誤解を生じさせる場合も商標権侵害行為と認定すべきであることを意味すると思われる。
実務において、一部の判決では、商標権侵害に該当するかどうかを判断する際に、「商標的使用」であるかどうかを一つの判断要素とする傾向が見られる。例えば、重慶市第五中級人民法院は、「時代広場」文字登録商標事件において、「被告は、単独若しくはっきりと「星光時代広場」という字句をを使用しておらず、標章の全体に記述的に用いられており、サービスの類別の名称を示す副次的構成要素に過ぎない……それと同時に、被告は、区別のつきやすい複数の標章全体を組み合わせて使用している」と指摘し、標章の類似性の有無を含むその他の判断要素と結び合わせて分析した上で、被告は原告の商標権を侵害していないと認定した。
不正競争防止法の展開に伴い、原告による商標権侵害の主張に対し、司法機関は、被告の標章自体、またはその寸法及び位置付けやその他の構成要素との関係などを総合的に考慮した上で、商標的使用に該当するか否かを判断する。訴えられた標章が目立つように使用されていない場合には、「商標的使用」を否定することになり、商標権侵害に該当しないと認定される可能性が高い。従って、商標権者の立場から言うと、訴訟前に被告標章の使用が「商標的使用ではない」と認定される可能性を分析しておく必要がある。認定される可能性が高い場合は、不正競争又はその他の角度から訴訟を提起するほうが相対的に有利だと思われる。
最後に、「容易に混同を生じさせる」という要件について、法律法規では、「誰」の混同を生じさせるかを明確にしていないため、司法機関が個別事件を審理する際に、問題となるのは、一部の裁判官が自分の日常的な経験及び体験から、混同の可能性を判断することである。実は、「容易に混同を生じさせる」恐れの有無を判断するときにも、「関係公衆」の概念の適用は必要であると思われる。又、関係公衆とは『最高人民法院による商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈』第8条によると、「商標に表記された某類の商品または役務に関係ある消費者及び前述の商品または役務の営業販売に密接な関係を持つその他の経営者を指す。」とされている。大多数の事件において、裁判官はこれらの問題を正確に把握している。例えば、最高裁判所は、「維納斯」商標権利侵害事件の二審において、「普通の消費者が一般の注意を払った場合は、……について誤認を生じさせない」と指摘している。
尚、混同の有無への判断に影響を及ぼす要素は、標章の類似性、標章使用の地域範囲、引証商標の歴史形成及びその発展過程、標章の顕著性、更に商品販売のルートなども含まれている。
上記の纏めとして、商標権者は、自らの権利を守るために、他人による類似標章使用に対して、訴訟策略を立てるときは、先ず何(商標権侵害又は不正競争防止法又は其のほかの法規制等)を理由に訴訟を提起すれば有利になるかを考える必要があり、それを決めた上で、理由も踏まえて、関連証拠の準備に力を入れることが大事だと思われる。被告の場合は、『商標法』第59条に規定されている一般的名称、主要原料、地名等から正当な使用を主張するか、又は不正競争防止法の相応の規定から抗弁理由を求めることが考えられる。