AI導入による余剰人員を「客観的状況の重大な変化の発生」を理由に解雇できるか
本テーマについては、まずいくつかの事例を見てみよう。
A社はAIを活用して地図データ収集システムを導入したことを受け、従来、手作業によりデータ収集業務を担当していたナビゲーション製品部署の廃止を決定した。その過程において、A社は劉氏と労働契約の変更について協議したが、合意に至らなかったため、一方的に劉氏との労働契約を解除した。劉氏は労働仲裁を申し立てたが、仲裁、第一審、第二審はいずれもA社による契約解除を違法と認定した(詳細は(2024)京01民終11896号参照)。
B社はAI技術により余氏の業務内容の一部が代替可能となったことを理由に、余氏と月給を2.5万元から1.5万元へ減額することの協議を行ったが、合意に至らなかったため、一方的に労働契約を解除した。労働仲裁及び裁判所はいずれもB社による契約解除を違法と認定した(2026年4月28日、杭州裁判所公表の「AI企業と従業員の権利保護に関する典型事例」の一つ)。
C社は数百人の従業員と労働契約の変更について協議し、その過程で、朱氏に賃金水準を維持したまま生産ラインの管理職から一般作業員への配置転換を提案した。朱氏はこれを拒否したため、C社は労働契約を解除した。朱氏は労働仲裁を提起し、「C社の売り上げは近年安定している。AIスマート全自動生産ラインの導入により人員を半減させたのに過ぎず、客観的状況の重大な変化の発生には該当しない」と主張した。C社は、生産ラインの余剰・遊休状況、顧客からの関連製品の購入中止通知、及び2022年から2024年までの注文メールを提出し、「客観的状況の重大な変化の発生」を立証した。その結果、仲裁機関、一審裁判所、二審裁判所はいずれもC社の主張を認め、C社による契約解除を合法と認定した((2025)粤2071民初38360号)。
上述の3つの事案はいずれもAI導入による余剰人員の削減に係わるが、裁判の結果は異なる。その理由はどこにあるのだろうか?
ポイントとなるのは、単なる「AIの活用」による部署や人員の余剰を「客観的状況の重大な変化の発生」と同一視せず、他の客観的状況を総合的に考慮した上で、状況ごとに判断されることだ。
北京の事案において、裁判所は、「A社がテクノロジーの発展、市場の変化など通常の経営活動において予見可能な要因に基づき、経営戦略と業務を調整し、AIを活用した地図データの収集に転換することは、客観的状況の重大な変化の発生を構成しない」と指摘した。又、この事案において、注目すべきことは、裁判所の判決には、「A社はナビゲーション製品部の廃止を主張したものの、同部署の他の従業員は引き続き在籍しており、A社が劉氏に対して変更後の具体的な配置先や勤務内容を明確に提示した事実も認められなかった」と記載されていることだ。同様に、杭州の事案において、裁判所は、「AIは市場競争に適応するための技術革新であり、必ずしも労働契約の履行不能を招く「客観的状況の重大な変化の発生」に該当するとは限らない。B社が提示した減給案は不合理である」と指摘し、最終的に「労働契約の違法解雇」と認定した。一方、広東の事案において、C社が勝訴した要因は、生産ラインの遊休、受注量の減少、生産ラインの従業員数百人規模の削減といった客観的事実に加え、変更後の具体的な配置先を提示し、賃金水準の維持について朱氏と協議した一連のやり取りを証明したことにあった。
上述の3つの事例から、以下の結論を導き出すことができる。
1、AIの導入が人員余剰をもたらす唯一の理由である場合は、客観的状況の重大な変化の発生に該当しない。
2、AIの活用により人員余剰が発生したにもかかわらず、受注量の減少、経営赤字、操業停止・生産停止など他の経営不振の客観的状況が伴い、かつ客観的データにより証明可能な場合には、客観的状況の重大な変化の発生と認定される可能性が高い。
3、上述の2に基づき、会社が条件変更の協議を行う際は、関連する全従業員と公平に行い、仮に賃金調整を行う場合は、減額幅を可能な限り抑制する(一般的には20%が上限)ことに重をおくと、客観的状況の重大な変化の発生と認定される可能性がより高くなる。
企業にとって、より重要なのは、慎重に将来を見据えた人員計画を策定し、企業の中長期的な発展計画に基づいて人材需要の変化を合理的に予測するとともに、従業員数と人員配置を統一的に調整する。又、人事評価制度を整備し、優秀な従業員が安心して働くことができ、勤務実績が著しく低い従業員には相応の対応ができるよう職場ルールを構築する。