関連会社間の混同雇用に係るコンプライアンス管理のコツ

実務において、関連会社間の混同雇用は珍しくない。混同雇用の典型的な例としては2つの状況が考えられる。(1)労働者が同時に2つ以上の関連会社に労働を提供する。例えば、、グループ会社の法務担当者であるAが、同時に法務担当者がいない傘下の子会社の法務も担当している。(2)労働者が交互に2つ以上の関連会社に労働を提供する。例えば、エンジニアのAはプロジェクトのために北京の関連会社に配属され、プロジェクト完了後、別のプロジェクトのために広州の関連会社に配属される。

企業の立場から言えば、混同雇用は適切に管理しなければ、多くの潜在的リスクにつながる。例えば、関連会社間のコスト配分が適切でなければ、特別納税調整に係る可能性がある。また、労働者が業務上のミスにより関連会社に損失をもたらし、使用者に損失が及ばない場合、使用者は内部規則制度に基づき処分することが困難になる可能性がある。

各当事者の権利、義務及び責任を明確にし、関連リスクを軽減するためには、以下のとおり、必要な予防措置を講じることを提案する。

まず、労働関係の主体を整理、確定する。つまり、所在地の司法規則や動向に基づき、労働関係の主体(即ち使用者)を確定し、関連文書を締結するのだ。

司法実務において、混同雇用における労働関係の認定根拠に対する意見は一致しないが、主流となる見解は主に3つある。1、労働契約を優先的根拠とする。北京、陝西、吉林、深センなどではこの見解が用いられ、相応の地方ガイドラインが公布されている。2、雇用の事実を優先的根拠とする。安徽省ではこの見解を採用し、同地方ガイドラインにも反映している。上海市では明確に規定されているわけではないが、この見解に基づく裁判が多く行われている。3、労働者の選択権を優先的根拠とする。山東省ではこの見解を支持し、相応の地方ガイドラインを公布した。天津市と重慶市でも、この見解に基づき裁判が行われた事件がある。注目すべき点は、2023年12月12日に公布された『労働紛争事件の審理における法律問題の適用に関する最高人民法院の解釈(二)(意見募集稿)』の第九条「混同雇用」では、「複数の使用者に交互に又は同時に雇用される労働者が労働関係の確認を請求する場合、以下の状況によって処理する。(一)書面により労働契約を締結しており、労働者が労働契約に基づき労働関係の確認を請求する場合、人民法院はこれを認めなければならない。(二)書面による労働契約を締結しておらず、労働者が労働関係の確認を請求する場合、人民法院は雇用管理行為、勤務時間、勤務内容、賃金報酬の支給、社会保険料の納付などの要素に基づき確認することができる。労働者が使用者に連帯責任を負うよう請求する場合、人民法院はこれを認めるべきである。ただし、使用者間で労働者の賃金報酬、福利厚生などについて法に基づく約定を行っており、かつ労働者の同意を得ている場合はこの限りではない」と明言されていることである。当該意見募集稿は正式に施行されてはいないが、混同雇用における労働関係の認定に関する意見は統一される傾向にあり、裁判において今後見られる見解をある程度反映するものであると予想される。

労働関係の主体を明確にするほか、実務において職責の設定にも注意する必要がある。冒頭の従業員Aを例に挙げると、グループ法務担当者の職責が傘下の子会社の関連業務を明らかにカバーしている場合、通常は混同雇用と認定されない。そのため、企業のニーズに応じて、実際の状況を踏まえ、適切に設定する必要がある。

次に、関連会社間の混同雇用に基づく費用とリスクを適切に処理すること。『労働契約法実施条例』第10条には、「使用者は従業員を新たな職場に配属する場合に、勤続年数を新たな職場における勤続年数に合算することができる」と規定している。そのため、元使用者との労働契約を早期に解除し、新たな使用者と労働契約を締結するという2つの段階を踏むことで、関連会社間の混同雇用による費用とリスク問題を解決するというのが簡潔で明瞭な方法である。ただし、関連会社間に管理関係がある場合、又は関連会社が労働関係の変更を希望しない場合、その他労働者が新しい職場との労働関係の構築に同意しない場合は、関連会社間でサービス協議書などを締結することで、混同雇用に伴う費用とリスク負担の問題を解決するのが望ましい。