海外企業との間で電子署名・電子印鑑を用いて締結した契約は有効であるか
越境ビジネスにおいて、紙の契約書は国際宅配便による送付が必要となるが、時間とコストがかかる上、紛失や遅延などのリスクも伴う。一方、電子署名・電子印鑑を用いて双方がオンラインで契約を締結すれば、利便性が高くコストも削減できる。そのため、電子署名・電子印鑑への切り替えを希望する企業は増えている。しかし、ここで重要な問題となるのが中国の法人と海外の法人との間で電子署名・電子印鑑を用いた契約の法的効力、すなわち、契約の有効性に影響を及ぼすかいう点である。
一般的に、電子署名・電子印鑑証明書の効力は属地性を持つ。すなわち、特定地域における認証は当該法域内でのみ真実性が推定され、他の法域においては真実性が推定されるという優遇措置は失われる。法域によって電子署名・電子印鑑に関する法律が異なるため、具体的な法域の法律に基づいて、電子署名・電子印鑑が法的要件を満たしているか否かを判断する必要がある。
具体的に言えば、取引当事者が選択した準拠法に基づいて電子署名・電子印鑑の効力を判断する必要がある。
仮定1:中国のA社と日本のB社が設備購入契約を締結し、準拠法を日本法、管轄裁判所を日本の地方裁判所と約定した。もしA社が中国国内の認証局(CA)発行の電子印鑑を用いて契約を締結する場合、電子印鑑の有効性は?
日本の『電子署名及び認証業務法』によると、法定要件を満たす電子署名がなされた電子文書は真正に成立したものと推定され(本人の意思表示に基づいた)、その推定効力は手書きの署名/実印に等しい。したがって、日本国内で認定された認証局(CA)の電子印鑑は真実かつ有効であると推定される。A社の電子印鑑は中国の認証局(CA)が発行したものであるため、日本における推定効は有さず、当然に有効であるとはみなされない。紛争が生じたら、A社は電子印鑑の真正性を証明するために、中国の電子印鑑・電子署名の信頼性を裏付ける証拠(署名監査ログ、メタデータ、証明書の検証レポート、授権記録など)を提出する必要がある。
仮定2:中国のA社と日本のB社が設備購入契約を締結し、準拠法を中国法、管轄裁判所をA社所在地の裁判所と約定した。もしB社が日本の認証局(CA)発行の電子印鑑を用いて契約を締結する場合、電子印鑑の有効性は?
『電子署名法』第3条によると、信頼できる電子署名であれば、その効力は実印や手書きの署名と同等である(ただし、人間的属性に係る特殊契約、水道・電気・ガス等の供給停止に関する契約、または法律上、電子署名を適用しない旨の規定がある場合を除く)。信頼できる電子署名について、同法第13条によると、以下の3つの要件を備える必要がある。(1)専有性:電子署名が署名者専有のものであることを指す。署名者にデジタル証明書を発行する前に、身分情報の検証を行い、デジタル証明書の不正利用を防止し、デジタル署名が署名者本人専有のものであることを保証する。(2)制御性:署名用のパスワード、検証コード、顔認証等により、電子署名証明書を取得する過程において、関連資料が署名者本人の管理下に置かれていることを保証する。(3)改ざん防止性:電子署名がなされた後、電子署名に何らかの変更が加えられた場合、またはデータ電文の内容や形式に何らかの変更が加えられた場合、その事実が検知可能であること。
上述の3つの要件を確認するために、『電子署名法』第16条では、電子署名に第三者認証が必要である場合は、法により設立された電子認証サービス提供者が認証サービスを提供することを定めている。また、同法第17条と第18条では、電子認証サービス提供者が満たすべき条件、ならびに認証資格の申請・受理について規定している。したがって、これらの規定は国外の電子認証サービス提供者には適用されない。国外の電子認証サービス提供者については、『電子署名法』第26条によると、国務院情報産業主管部門が関連協定または相互主義の原則に基づき承認した場合に限り、国外の電子認証サービス提供者が国外で発行した電子署名認証証明書が同等の法的効力を有することになる。しかし、現時点まで、工業情報化部によって認可または許可された国外の電子認証サービス提供者は一つも存在しない。そのため、現時点では、国外の電子認証サービス提供者が国外で発行した電子署名認証証明書は、中国の『電子署名法』および関連部門の規則の下では、その法的効力は認められていない。
司法実務において、電子署名の真正性・有効性を認定するために第三者認証の取得が必要条件であるか否かについては、統一的な見解がない。例えば、(2018)京03民終4845号事件において、裁判所は「電子署名の第三者認証は、電子署名の法的効力を認定するための条件の一つである」と判断した。(2016)京01民終726号事件において、裁判官は、「X社は、国外企業の電子署名システムを通じて馬氏に『ビジネス倫理行動規範』を公示・送達したことを主張したが、『中華人民共和国電子署名法』の関連規定によると、電子署名に第三者の認証が必要である場合、法により設立された電子認証サービス提供者が認証サービスを提供する。新聚思という会社には、自社の電子署名サービス提供者が中国の主管部門の許可を得たことを証明する証拠がない。したがって、馬氏が異議を申し立てた場合に、電子署名に係る証拠の法的根拠は乏しい」と判断した。(2019)粤03民終824号事件のように、裁判所が電子契約の署名状況や履行状況など総合的な状況から形成された完全な証拠の連鎖に基づき、電子署名の法的効力を認定したケースもあり、その際は電子署名認証証明書を効力認定の必須条件であるとはされていない。
現行の法律規定及び司法実務から見て、日本のCA電子印鑑が信頼できる電子署名に該当するか否かについては不確実であり、当事者が署名監査ログ、メタデータ、証明書の検証報告書、授権記録など、電子署名・電子印鑑の信頼性を裏付ける十分な証拠を提出できる場合は、裁判所に認められる可能性がある。
以上のことから、中国法人の立場から考えると、自社のリスクを回避するために、契約において中国の法律を準拠法として約定するのが最善策である。もし、双方の交渉上の立場から、外国法を準拠法とせざるを得ない場合、かつ相手方が関連会社でない場合は、リスク低減のため状況に応じて以下の措置を講じるとよい。(1)電子署名・電子印鑑が単に効率化を目的とする場合は、電子署名完了後に、相手方に対し、法人の実印の押印、または署名した紙媒体の書類のスキャンデータの送付を求めるとともに、原本も郵送してもらうことで、二重の保障を確保する。(2)国外の相手方が実印の押印または署名のある書類の提供を拒否する場合、立証の困難さやリスクを低減させるために、電子署名完了後にその書類をメールで添付ファイルとして送付するよう求めるとよい。