違約により取得した証拠は有効であるか

X社はY社に対しEシステムの構築・メンテナンスのサービスを提供する会社であり、Y社の要求に応じて、双方の契約において「契約履行における書面又は書類のやり取りは全てY社の指定メールアドレスを使用し、他のメールアドレスへ無断で複製又は転送してはならない。」ことを約定した。しかし、X社は契約履行の中で、BCC(blind carbon copy)によりX社のメールアドレスに転送した。その後、X社とY社の間に紛争が起こり、X社は関連メールを証拠として提出しようとするが、それらのメールの効力が認められず、かつY社に違約責任を追及されることを恐、どうしたらよいか分からず苦慮している。

『民事訴訟法』及び『民事訴訟証拠に関する最高人民法院の若干規定』(法釈〔2019〕19号)の関連規定によると、合法性とは主に「証拠の形式、出所は法律規定に合致する」ことを指す。但し、違約により取得した証拠の出所が法律規定に合致するか否かは明確にされていない。

司法実務において、裁判所によって明確で統一的な判断規則はないし、ケースバイケースで証拠の有効性の判断も不確定である。

(2020)滬02民終5872号案件において、Y社と田さんは「労働契約」及び「秘密保持協議書」を締結し、「田さんは、Y社の仕入先・顧客情報、事業情報などの営業秘密を尋ねたり、漏らさないこと、また当該秘密保持義務に違反した場合は、直ちに是正するとともに、Y社に対し20万人民元の違約金を支払う。」ことを約定した。Y社は田さんが秘密保持義務違反を証明するため、田さんの個人用メールアドレスにおける一部のメールを証拠として提出した。第一審裁判所は、「それらの証拠は田さんの個人用メールアドレスから取得されたものであるが、田さんがY社において個人用メールアドレスの自動登録を設定したので、Y社が不正な手段により取得したものではない。田さんの個人用メールアドレスにおけるメールは証拠としての効力が認められる。」と認定した。第二審裁判所は、「Y社から提供された証拠から、田さんが在任中にY社の事業情報を個人用メールアドレスに複製したことを証明できる。秘密保持協議書で田さんはY社の営業情報を複製・摘録してはならないことが約定されているが、田さんは個人用メールアドレスにY社の営業情報を多数複製したことからして、秘密保持協議書の約定に違反している。従って、Y社の営業情報が含まれる関連メールを削除し、引き続き秘密保持義務を履行するものとする。」と指摘した。田さんは秘密保持義務に違反したと認定されたが、関連メールの証拠としての効力は認められなかった。

しかし、一部の労働紛争案件において、労働者が賃金、残業代、業績などを主張するために、個人用メールアドレスに関連メールを転送し、かつ証拠として提供する場合、通常、裁判所は、「転送されるメールは再編集ができるので、証拠の原本とはならない。使用者がそれらの証拠を認めず、かつ補足証拠もない状況下で、裁判所はそれらの証拠の真実性と客観性を判断しにくい」ことを理由に、関連証拠の効力を認めない。( (2020)滬01民終7077号、(2019)滬02民終6307号、(2018)魯06民終2406号、(2018)滬0115民初10675号、(2018)滬0110民初730号)。

評価報告又は専門項目の鑑定報告について「評価機関の同意を得ずに、他人に提供してはならない」ことを約定した場合に、被告は、「原告は関連証拠を取得する権利がなく、取得方式は法律規定に合致しない。」と主張することが多い。しかし、関連証拠を「真実かつ合法で、案件と密接に関係する」と認定し、関連証拠の効力を認めた判決もある((2020)浙0782民初5688号、(2020)湘13民初14号判决)。

以上のことから、個別案件において、違約により取得した証拠の有効性の判断は不確定であるが、以下の規則から、特定の規則から、特定の証拠の効力は認められる可能性を推測することができる。

第一に、権威ある機関から発行される評価報告、鑑定報告は、仮に違約により取得した証拠として提出した場合でも、通常、裁判所は、証拠としての効力を認める。

第二に、双方間の約定に違反して取得した証拠が、双方間の紛争に用いられる場合、証拠としての効力が裁判所に認められる可能性が高い。法理からみて、その理由は、まず、情報を知る者の範囲が拡大しておらず、無断で情報を取得した当事者自体が当該情報の開示対象者であること、次に、法廷審理においてのみ関連情報を使用し、営業秘密に係る場合は非公開審理を申請することができる。そうすると、情報の所有者に損害をもたらすことにもならないからだろう。当然、情報の所有者が、相手のBCC又は転送行為が約定に違反すると主張し、かつ違約責任を約定していた場合に、別途訴訟を提起することができる。しかし、例外となる労働紛争案件もある。例えば労働者が無断転送により取得した残業や業績を証明する関連証拠の効力は、通常、裁判所は認めない。