保証人は、保証の存在を知らない債務者に求償権を行使することができるのか
2019年5月、張さんは不動産を購入するために、李さんから10万元を借り、「1年後に返済する」と約定した借用書を渡した。その後、李さんは新型コロナの流行により、期間満了後に10万元を回収できないことを心配し、張さんに繰り上げて返済することを相談しようと思い、張さんの家に行った。張さんは不在であったが、たまたま張さんの両親を訪ねに来ていた孫という方が経緯を聞いた後、自発的に張さんに担保を提供すると申し出、保証のために借用書にサインをした。2020年5月、張さんが期限を超えても返済しなかったため、李さんは、孫さんに対し担保責任を負わせるよう要求した。孫さんは担保義務を履行後、張さんに求償したが拒否された。実は張さんは孫さんが担保を提供してくれていたことを知らなかったのだ。この場合に、孫さんは張さんに求償することができるだろうか?
本件の実質的な問題は、債務者の承諾を得ていない場合の担保は有効であるか?
これについては意見が対立する。1つ目の意見は、担保は無効である。その理由は、債務者の承諾を得ていない場合、担保は債務者の利益を損ねる可能性があり、契約の意思自治の原則に違反するので、当然、担保人は債務者に求償することができないというものである。2つ目の意見は、仮に債務者の承諾を得ていないとしても、担保人が自分に義務を別途付け加え、債務者が完全に利益を受けるので、担保は有効である。仮に無効であるとしても、求償の根拠は債務者の不当利得にあり、当然、担保人は債務者に求償することができるというものである。
現行の法律、司法解釈には明確な規定がないが、2つ目の意見を認めているようである。『中華人民共和国担保法』第6条には、「保証とは、保証人と債権者の約定により、債務者が債務不履行になる場合、保証人が約定通りに債務を履行し、又は責任を負う行為を指す。」と規定している。当該規定から見て、債務者が事情を了解していることは、保証が成り立つために必要な条件とされておらず、さらに債務者が保証契約に関与していない場合もある。『<中華人民共和国担保法>の適用における若干問題に関する最高人民法院の解釈』第22条には、「第三者が一方的に書面で債権者に担保書を発行し、債権者がこれを受け入れ、異議申立てをしない場合は、保証契約は成立する。」と規定している。当該規定では、保証が成立するには、債務者が事情を了解していなければならないという要求を示していない。
裁判文書の検索結果から見ると、司法実務において、各地の裁判所は基本的に2つ目の意見を取っている。通常、裁判所は、①担保は債務者の義務を加重するわけではなく[1] 、さらに債務者の返済期間を延ばす[2] 、②現行の法令によると、保証人と債権者が合意に達した場合、保証人は債務者の債務履行に対して担保を提供できる[3]。「承諾をしたこともないし、事情を把握していなかったので、当該保証は拘束力を有しない」という債務者の主張は法的根拠に不足する。③民事行為の公平性の原則に違反することなどに基づいて、債務者が事情を把握していないことは、担保人の求償を阻却する事由にならないと認定する。
但し、個別案件によって例外もある。例えば、徐さんとH社との契約紛争案件第一審判決において、第一審裁判所は、「徐さんは『担保確認書(賃貸借)』に確認サインをしておらず、H社は賃料立替済の証拠を提出したが、当該証拠は、徐さんの滞納賃料を返済したことを証明するには不十分である。」と判断し、H社の請求を棄却した(注:第二審裁判所は最終的に「徐さんがH社に対し立替賃料を返済する」と判決を下した)。但し、よく考えてみれば、この例外の根源は、債権者に対する履行行為が担保義務に基づいたものであるか、それとも担保人と債権者とのその他の法律関係による債務に基づいたものであるかを担保人が証明できないことにある。
以上のことから、リスク防止のために、企業は他人のために担保を提供するときに、債務者が事情を把握しているという関連証拠を保存しておくべきである。担保提供のことを債務者に知られたくない理由があり、かつ担保人と債権者の間に他の債権債務が存在する場合は、関連証拠が、被担保債務の返済済みを証明するために十分であるか否かに特に注意を払うべきである。
又、法定義務又は約定義務がない状況下で、自発的に債務者の代わりに債務を返済した場合は、事務管理紛争を理由に訴訟を提起し、これによって債務者に求償することを考慮できる。
[1] (2020)浙07民終2259号
[2] (2018)皖0221民初63号
[3] (2019)内07民終38号