国外赴任中に発生した従業員の怪我は労災に該当するか

何氏はアフリカに赴任中、不注意により作業台から転落し骨折した。何氏は現地の病院で22日間治療を受けた後、帰国し、中国の病院で治療入院を続けた。退院後、何氏は労災認定を申請した。会社は何氏のために国内の社会保険を停止し、アフリカの労災保険に加入していた。そのため、もし中国現地の社会保障局が労災であると認定すれば、会社は労災補償を別途行う必要があるが、現地の社会保障局は最終的に労災と認定しなかった。何氏は訴訟を起こしたが、一審裁判所、二審裁判所及び再審裁判所はいずれも現地の社会保障局の認定結果を支持した(詳細は(2020)湘民申478号を参照)。

『労災保険条例』第44条には、「従業員が国外に派遣され、派遣先の国または地域の法律に基づき現地の労災保険に加入すべき場合は、現地の労災保険に加入するものとし、国内における労災保険関係は終了する。現地の労災保険に加入できない場合は、国内における労災保険関係を継続する。」と規定している。この規定は国境を跨ぐ労災問題を処理する際の核心的原則すなわち属地原則を優先とし、国内保障は補足的であるという立場を確立した。

実務において4つの状況が想定される。

  1. 現地で労災保険を納付する必要がない/納付できない場合は、国内の労災保険を適用する

国外での研修、商談、国際会議への出席など短期出張では、企業は従業員のために出張先の労災保険に加入しない。また客観的にも加入できないのが一般的でなので国内労災保険の納付を停止することは通常ない。このような場合に、従業員が外国で労災に遭った場合、当然国内で労災認定を申請することになる。国外で発生する医療費は高額で、多くの医薬品が中国の労災保険により清算できない可能性があることを想定し、関連する商業保険に加入するのが一般的な方法である。

  1. 法により現地で労災保険を納付しなければならない場合、現地で労災保険に加入後、国内の労災保険関係は終了する

国外プロジェクトや生産運営に携わるなど長期的な国外派遣や常駐派遣となる場合は、通常、就労ビザが必要である。そのほとんどの場合、国外の法規により現地の労災保険に加入しなければならないため、企業は国内外での労災保険の二重納付という問題に直面する可能性がある。企業は『労災保険条例』第44条に基づき、従業員のために国外労災保険を納付した後、国内労災保険の納付を中止することができる。国外で労災が発生した場合、本件のように、現地の労災保険の要求に従って賠償する。国内と国外の労災保険の賠償基準は異なる可能性があり、国外の賠償基準が国内より低い場合、紛争が起こりやすいので、企業は従業員と国外労災保険への加入、国内労災保険の終了について書面で約定してとよい。 

  1. 法により現地で労災保険を納付しなければならないが、企業が現地の労災保険に加入していない

まず、企業が現地の法律規定に背き、従業員のために保険に加入しない場合、現地機関により処罰を受けるリスクがある。次に、国外の労災保険に加入していない場合、国内の労災保険関係は継続されるため、企業は引き続き従業員のために国内で労災保険に加入しなければならない。企業が国内で従業員のために保険に加入していない場合、相応の労災保険待遇について賠償責任を負わなければならない。例えば(2021)湘04民終2572号が典型的な事例である。

    4.国内外で従業員が二重に保険に加入している。

従業員が外国赴任中に国内労災保険と国外労災保険の両方に加入している。このような場合、従業員は二重賠償を得ることができるのか?

民法の基本原則には「埋め合わせの原則」が含まれるため、法理上、二重賠償は認められない。司法実務において例外があるか検索したが、二重賠償を認めた判決は見つからなかった。