『知的財産権侵害刑事事件の処理における法律適用の若干問題に関する解釈』が2025年4月26日より施行
知的財産権刑事事件の法律適用について、最高人民法院と最高人民検察院は2004年、2007年、2020年に3つの司法解釈を公布してきた。知的財産権侵害犯罪行為の新型化、複雑化、ハイテク化に伴い、2021年の『刑法改正案(十一)』では、知的財産権侵害罪の条項が大幅に改正された。こうした背景の下、2023年1月19日、最高人民法院と最高人民検察院は『知的財産権侵害刑事事件の処理における法律適用の若干問題に関する解釈(意見募集稿)』を公布し、国民に意見を求めた。2年以上の歳月を経て、最高人民法院と最高人民検察院は2025年4月23日に『知的財産権侵害刑事事件の処理における法律適用の若干問題に関する解釈』(法釈20255号)を公布した。4月26日より施行されている『知的財産権侵害刑事事件の処理における法律適用の若干問題に関する解釈』(法釈〔2025〕5号)は、上述の3つの司法解釈及び『最高人民法院、最高人民検察院の著作権侵害刑事事件の処理における録音・録画製品に係る問題に関する答申』(法釈〔2005〕12号)(以下、『旧司法解釈』と総称する)に取って代わるものである。
法釈〔2025〕5号の内容は膨大なため、本稿は商標権侵害刑事事件に関する改正要点のみを紹介する。
- 「同種サービス」の認定に関する追加規定
旧司法解釈では「同種商品」の認定について詳しく規定されていた。商標の使用対象物には商品とサービスが含まれることを踏まえ、法釈〔2025〕5号では、「同種サービス」の認定基準について、「サービス名称が異なり、サービスの目的、内容、方式、対象、場所などが同一またはほぼ同一である場合、関連大衆は通常それを同種サービスと考える」と追加した。
- 「情状が深刻である」と認定される状況の新規追加
商品商標権侵害行為について、法釈〔2025〕5号では、「情状が深刻である」と認定される状況として、「2年以内に刑法第213条から第215条に規定された行為を実施したことにより、刑事処罰または行政処分を受けた後、再び同様の行為を行い、違法所得額が2万元以上または不法経営額が3万元以上となる場合」を新たに追加した。
サービス商標を侵害する行為については、「その他の状況」を除き、法釈〔2025〕5号では、「情状が深刻である」と認定される3つの具体的な状況として、「(1)違法所得額が5万元以上の場合。(2)2種以上の登録商標を偽り、違法所得額が3万元以上の場合。(3)2年以内に刑法第213条から第215条に規定された行為を実施したことで、刑事処罰又は行政処分を受けたが、その後再び実施し、違法所得額が3万元以上となる場合。」を初めて規定した。
- 「情状が特に深刻である」という認定基準の改正
旧司法解釈では、「情状が特に深刻である」の定量化基準について、「(1)不法経営額が25万以上又は違法所得額が15万以上の場合。(2)2種以上の登録商標を偽り、不法経営額が15万以上または違法所得額が10万元以上となる場合」と定めていた。法釈〔2025〕5号では、「情状が特に深刻である」の定量化基準を、違法所得額または不法経営額が「情状が深刻である」という認定基準の10倍以上になるよう改正した。つまり、法釈〔2025〕5号では、「情状が特に深刻である」として刑を言い渡す最低基準が大幅に引き上げられた。
- 「知っている」と認定される具体的な状況の新規追加
法釈〔2025〕5号では、「知っている」と認定される具体的な状況について、「(1)登録商標を偽った商品を販売したとして刑事罰を受け、また同種の登録商標を偽った商品を販売した場合。(2)正当な理由なく、著しく市場価格を下回る価格で仕入れる、または販売する場合。(3)登録商標を偽った商品の販売を行政法律執行機関、司法機関に発見された後、権利侵害商品と会計証憑などの証拠を移転、廃棄し、または虚偽の証明を提供する場合。」の3つを新規追加した。
- 「偽ブランド品だと知りながら販売する」ことの認定基準の改正
まず、「偽ブランド品だと知りながら販売する」、「金額が比較的大きい」の認定基準を、「売上高が5万元以上」から「違法所得額が3万元以上」に調整した。次に、「その他の重大な情状」の認定基準を改正した。具体的には「(1)販売金額が5万元以上の場合。(2)2年以内に刑法第213条から第215条に規定された行為を実施したことで、刑事処罰又は行政処分を受けた後、再び実施し、違法所得額が2万元以上又は販売金額が3万元以上となる場合。(3)登録商標であると詐称した商品がまだ販売されておらず、商品価値が上述の(1)と(2)に規定された販売金額基準の3倍以上に達する場合、または販売された商品の販売金額が上述の(1)と(2)の基準に達していないが、未販売の商品の商品価値との合計が上述の(1)と(2)に規定された販売金額基準の3倍以上に達する場合。」を含む。第三に、「違法金額が莫大であるか、またはその他の特に重大な情状」の認定基準を、「違法所得金額、販売金額、商品価値または販売金額と商品価値との合計が相応の所定基準の10倍以上に達する場合」と定めた。
- 「他人の登録商標表示を偽造、無断で製造又は販売する」ことの認定基準の改正
法釈〔2025〕5号では、他人の登録商標表示を偽造し、無断で製造した数量、または偽造し、無断で製造した他人の登録商標表示を販売した数量を2万件から1万件に、違法所得額を5万元から2万元に調整した。不法経営額は3万元のままである。2種以上の登録商標表示を偽造、無断で製造した数量、または偽造、無断で製造した2種以上の登録商標表示を販売した数量を1万件から5000件に、違法所得額を3万元から1万元に調整した。不法経営額は2万元のままである。又、「他人によって不正に製造された登録商標表示を販売する」場合の基準が、従来の「販売された表示の数が2万件未満で、販売されていない表示の数との合計が6万件以上」から、「関連基準の3倍以上」に調整された。
法釈〔2025〕5号では、「情状が重大」の状況について、「2年以内に刑法第213条から第215条に規定された行為の実施により、刑事処罰又は行政処分を受けた後、再び実施し、表示の数が5000件以上、又は違法所得額が1万元以上、或いは不法経営額が2万元以上である場合」を追加した。「情状が特に重大」の認定基準は、「表示の数、違法所得額、不法経営額が相応の所定基準の5倍以上に達している場合」と定めた。
- 「二種以上の登録商標」の定義の明確化
法釈〔2025〕5号では、「二種以上の登録商標」とは、商品・サービスの異なる出所を識別する二種以上の登録商標を指す。登録商標は異なるが、同種の商品・サービスに用いられ、同一の商品・サービスの出所を指し示す場合は、「2 種以上の登録商標」として識別されるべきではないとしている。