一人会社が被告となった場合は株主も災禍を被るのだろうか
甲社は売買契約紛争で乙社を訴え、乙社の株主である丙社も被告に追加することを請求した。丙社の社長は、甲乙間の売買契約紛争に、なぜ無関係な丙社も巻き込まれたのか、甲社の悪意の濫訴ではないかと困惑している。
『会社法』第63条には、「一人有限責任会社の株主は、会社の財産が株主自身の財産から独立していることを証明できない場合は、会社の債務について連帯して責任を負わなければならない。」と規定している。『民事執行における当事者変更・追加の若干問題に関する最高人民法院の規定』第20条には、「執行債務者である一人有限責任会社の財産が法律文書の発効によって確定された債務を返済するに足りず、株主が会社の財産が自分の財産から独立していることを証明できず、執行申立人が当該株主を執行債務者に変更、追加し、当該株主会社の債務に対して連帯責任を負わせることを請求する場合、人民法院は当該請求を認めるべきである。」と規定している。
以上の規定から、株主と会社の意思の一致を避け、債権者の利益を保護するために、一人有限責任会社は立証責任転換規定の適用を受け、株主は、株主の財産が会社の財産から独立していることを証明しなければならない。さもなければ、株主は立証不能による法的責任を負うということだ。
しかし、実務において下記の論点は検討に値する。
第一、提訴又は審理の段階では、本件のように原告が相手方の一人株主を共同被告として追加することについて
裁判所は直接許可し、株主財産と会社財産との独立を被告が証明できる場合にのみ、「一人株主が責任を負わない」と判決を下す(状況1)か、原告に被告の財産混同を証明する初歩的な証拠を提出させ、その証拠をもとに、一人の株主を共同被告として追加するか否かを判断する(状況2)か、統一的なルールがない。既存の判決からみて、状況1に該当する場合が多いようである。
第二、株主の財産独立の証明基準について
直近5年間の『会社法』第63条の規定が適用された民事案件を検索したところ、80%近くの案件において裁判所が原告の請求を全部/一部認めている。実務において、多くの株主はその財産が会社の財産から独立していることを証明できないため、連帯責任を負っている。しかし、株主が証明の義務を果たしたとみなされるには、どの程度の証明をする必要があるかについて、法律上明確な規定がない。これについて、2点のアドバイスがある。
(1)2019年『九民紀要』における人格混同の判断基準を参照する。『九民紀要』によると、会社人格と株主人格との混同の有無を認定する場合、最も根本的な判断基準は、会社が独立の意思と独立の財産を持っているか否か、つまり会社財産と株主財産が混同されており、区別できないか否かである。人格混同になるか否かを認定する時は、以下の複数の要素を総合的に考慮する。①株主が会社の資金や財産を無償で使用し、財務記載をしない場合。②株主が会社の資金で株主の債務を返済し、または会社の資金を関連会社に無償で使用させ、財務記載をしない場合。③会社帳簿と株主帳簿を区分せず、これによって会社財産と株主財産を区分できない場合。④株主自身の収益と会社の利益を区分せず、これによって双方の利益がはっきりしない場合。⑤会社の財産が株主の名義で登記され、株主に占有・使用されている場合。⑥人格が混同されているその他の状況。
注意すべきことは、人格混同の判定と株主の財産独立の証明について差異があるが、本質的には共通しているという点である。つまり、会社が独立の意思と独立の財産を失い、これによって株主がその有限責任の範囲を超えて連帯責任を負う。従って、上述に挙げた行為は、株主の財産が独立しているか否かを判断する際に重要な参考になる。
(2)監査報告書の証明効力を正しく認識する
司法実務において、会社の監査報告書は、株主が財産の独立を証明するために重要な役割を果たし、株主と会社の財産が互いに独立していることを証明するものである。しかし、個別の案件では、裁判所によって監査報告書の証明効力に対して観点が異なる可能性はある。1つの観点は、会社が監査報告書を提出した後に、株主が初歩的な立証を完了させ、証明責任を原告に移す。その後、原告が被告とその一人株主との財産混同の証拠を提出できるか否か、或いは監査報告書に対して財産混同になる問題をどのように指摘するかによって決めるというもの。2つ目の観点は、監査報告書では会社と株主の財産が互いに独立していることを証明できないというものである。例えば、(2020)最高法民終727号案件において裁判所は、「利X会社が二審において提供した「監査報告書」などの証拠は、会社の負債と利益の状況を反映するだけで、利X会社と盛X会社の財産の動向を反映できず、利X会社の財産が盛X会社の財産から独立していることを証明するには十分ではない」と判断した。
第三、一人会社の該当範囲が、夫婦二人共が株主である場合にまで拡大する可能性がある。
会社法でいう一人有限責任会社とは、一人の自然人株主または一人の法人株主しかいない有限責任会社を指す。実際は株主が夫婦二人である会社もあり、形式上、一人株主の条件を満たしていない。しかし、司法実務において、多くの裁判所は、「会社を設立した財産は夫婦の共同財産であり、同一性を持っているため、夫婦会社は実質的に一人有限責任会社に該当する」と判断している(典型案例は(2019)最高法民再372号案件)。
以上のことから、一人会社(上述の夫婦二人が株主である場合を含む)に対して、株主の連帯責任リスクを下げるために、以下ように提案する。
1、まず『会社法』規定に厳格に従い、一人会社に対して年度監査を遅滞なく行う。受訴後に臨時発行した監査報告書は認められない可能性が高い。次に、監査報告書の内容に瑕疵がないかに注意を払う。例えば、監査内容には「意見保留」などの表現があるか否か。また、監査報告書の証明効力を高めるために、株主と会社間の資金やり取り、関連取引に関する内容を明確かつ完全に記載する。
2、財務管理を強化し、株主が会社の資金で株主の債務を返済し、財務記載をしないなど、『九民紀要』に記載されている状況を避ける。日常の仕事において完全な基礎財務資料を保存しておく。例えば、オリジナル証憑、会社帳簿、銀行の入出金履歴、財務諸表など、必要に応じて財務特別監査や司法会計鑑定を申請する。
最後になったが、2021年『会社法(改正草案)』及び2022年『会社法(改正草案二回審議稿)』ではいずれも、一人有限責任会社に関する特別規定を削除された。関係企業は立法動向に留意するべきである。