商標の識別性について

    S社は漢字の「没事儿」と円形図案との組み合わせ商標をもって商標登録出願を行ったが、商標局に却下された。S社はその商標に独創性があることを理由に、再審を申し立てた。商標評審委員会は、「S社の商標は『商標法』第11条第1項第(3)号の「その他の顕著な特徴に欠けるもの」に該当する」と認定し、登録出願却下の決定を下した。第一審と第二審を経て、北京市高級人民法院は最終的にS社の主張を認めなかった(詳細は(2016)京行終4148号判決を参照)。

    実務において、類似のケースは珍しくない。多くの企業は商標登録出願を行うときに、先に登録された他者の類似商標の有無に重点を置き、商標の識別性(顕著性)を無視することが多い。

    『商標法』第9条の規定によると、登録出願に係る商標は、顕著な特徴を有し、容易に識別できるものでなければならない。従って、顕著な特徴に欠ける商標の登録は認められない。

    では、どのような商標は「顕著な特徴に欠ける」と看做されるか?

    『商標法』第11条では、「顕著な特徴に欠ける」三つの状況を列挙している。(1)その商品の通用名称、図形、規格にすぎないもの。(2)商品の品質、主要原材料、効能、用途、重量、数量及びその他の特徴を直接表示したにすぎないもの。(3)その他の顕著な特徴に欠けるもの。『商標審査及び審理基準』では、「顕著な特徴」について、更に「商標が備えるべき、関連大衆が商品出所を区分するのに十分な特徴を指す」と明確にした。

    実務において上記の基準をいかに適用するかは、個別事案での判断により分かれると思われる。

    例えば、文頭の事案において、北京市高級人民法院は、以下の観点を示した。「没事儿」は日常生活用語であり、関連大衆により商標として認識されにくく、商標のあるべき顕著な特徴に欠け、商品やサービスの提供者を区分できない。又、S社は商標に独創性があり、標識の設計を行ったことを主張したが、著作権に係る独創性があることは、必ずしも商品又は商品出所を区分する役割があるとは限らない。

    記述的要素により関連商標表示が顕著性の欠如をもたらすか否かについて、『商標の権利付与?権利確定に係る行政案件の審理における若干問題に関する最高人民法院の意見』第7条には、「商標表示に含まれる記述的要素は商標全体が有する顕著性に影響を与えず、或いは記述的商標表示は、独特な方式で示され、関連大衆がそれをもって商品の出所を識別できる場合は、顕著性を有すると認定しなければならない。」と規定している。 (2016)京73行初579号判決などでは、肯定的な意見を示した。

    北京市高級人民法院は(2016)京行終4442号判決において、「関連大衆が商品又はサービスの出所を識別するのに十分な特徴を有するか否かを判断する場合は、以下の要素を総合的に考慮すべきである。(1)商標表示自体の構成(定義、呼称、外観)。(2)商標使用の対象となる指定商品又は指定サービス。(3)関連大衆の認識習慣。(4)所属業界の実際の使用状況など。」と指摘した。

    又、「関連商標表示と指定商品との関連性」について、「関連性が高ければ高いほど、商標の顕著性が低い。関連性が低ければ低いほど、商標の顕著性が高い。」( 出所: (2016)京73行初579号判決)。

    従って、関連大衆が登録出願の対象を商標として識別でき、これによって商品の出所を区分できるか否かは、登録出願の対象が顕著な特徴を有するか否かを判断するための重要な考慮要素である。

    但し、顕著性は変わらないわけではない。商標顕著性の有無は、商標の実際の使用状況と関係する。『商標法』では、「関連表示が使用により顕著な特徴を有し、かつ容易に識別可能なものとなったときは、商標として登録することができる」という「顕著な特徴に欠ける」例外状況を定めている。「美標」商標はその適例の一つであると思われる。逆に、最初に顕著な特徴を有し、幅広い使用により商品の通用名称となった場合、商品の出所を区分できる役割を果たせなくなるため、商標として保護を受けるものにならない。「U盘」商標無効案はその典型的な実例であろう。 

    上記の纏めとして、企業は商標登録出願を行うときに、日常生活用語、業界通用名称、商品材料、機能など「識別性に欠ける」表示を使用しないようにすべきである。又、商標登録が認められる確率を高めるために、よく見られる字体を使わずに、字体の変形等特別なデザインを行うよう勧める。