製造者が販売代理店の顧客と直接取引を行う場合は、営業秘密侵害になるか?

    実務において、多くの製造者は往々に販売代理店に販売権を与え、製品を顧客に販売してもらう。その場合、製造者は製品の研究開発と製造に取り組み、販売代理店は人力、物力を投入し顧客を開拓するため、製造者と販売代理店が積極的に提携できれば、間違いなくウィンウィンの関係になる。但し、販売代理店契約が期間満了後に更新されず、又は支払や品質問題により紛争を起こすなど、諸種の原因により双方が業務提携を終止することもある。双方の業務提携が終止した後、製造者が販売代理店の顧客と直接取引を行うときに、販売代理店は往々に、「それらの顧客は自分が開拓し、顧客情報は自分の営業秘密であるため、製造者の行為は営業秘密侵害に該当する。」ことを主張する。

    では、上述の場合に製造者の行為は営業秘密侵害になるか?

    それについて、まず2つの問題を明らかにする必要がある。その一つは、販売代理店所有の顧客情報(又は顧客リスト)は営業秘密に該当するのか?もう一つは、仮に営業秘密に該当する場合、製造者に守秘義務があるのか、あれば当該義務に違反するのか?

    『不正競争防止法』の規定によると、営業秘密とは、公衆に知られていない、商業価値を有する、権利者が相応の秘密保持措置を講じている機密情報である。即ち、秘密性、価値性、秘密管理性という3つの構成要件を備えていなければならない。従って、販売代理店の顧客情報には、連絡者、連絡方式、取引条件、商慣習などの奥深い情報が含まれる場合、通常、構成要件のとを満たしていると認定される。その上、販売代理店が顧客情報に対して秘密保持措置を講じている場合は、構成要件のをも満たすため、係る顧客情報は営業秘密に該当する。

    その場合に、製造者が関連営業秘密に対して守秘義務を負うか否かは、販売代理店と製造者間に秘密保持に関する約定があるかどうかによる。販売代理店と製造者が関連契約書において守秘義務を約定し、製造者は関連情報を販売代理店との間の契約書以外の目的に使用してはならないというような内容を明確にしていた場合、製造者は業務提携により知り得た販売代理店の顧客情報に対して相応の秘密保持義務を負うので、勝手に販売代理店の顧客と取引を行う場合は、営業秘密侵害と認定されるリスクが大きいと思われる。又、販売代理店と製造者が、製造者は自ら又は他の第三者を通じて、販売代理店の顧客と取引を行ってはならないというようなことをを明確に約定している場合、仮に守秘義務について約定していなかったとしても、製造者が上記の約定に違反すれば違約になる。

    しかし、一つ考慮すべきことは、販売代理店の顧客情報が営業秘密の要件を満たしており、販売代理店と製造者の間に秘密保持の約定がある状況下で、製造者が関連顧客と取引を行った場合、販売代理店による営業秘密侵害主張に対して、製造者は、関連顧客は製造者の製品又はサービスなどに対する信頼性に基づいて自主的に製造者と取引を行ったという理由で抗弁した場合、それが認められるどうかの問題である。即ち、この場合に、『不正競争民事案件の審理における法律適用の若干問題に関する最高人民法院の解釈』第13条第2項の規定、「顧客が、従業員個人の信頼に基づき従業員の使用者と取引を行う場合、当該従業員は退職後、顧客が自主的に従業員本人又はその新しい使用者と取引を行ったことを証明できれば、不当な手段を採っていないと認定される。」を参照し、営業秘密侵害に該当しないと認められるのか?

    それについて、明確な司法観点は見つかっていない。但し、上海浦東新区裁判所のある判決書では、営業秘密侵害に該当しないと認定する傾向が多く見られるようである。(2015)浦民三(知)初字第1880号判決書において、裁判所は主に、販売代理店は秘密保持措置を講じておらず、顧客情報は双方で共有するもので、営業秘密には該当しないことを理由に、原告の営業秘密侵害の主張を認めなかったが、「本件の特殊性は、取引の対象となる商品が、被告の日本高会社が製造する製品で、当該製品の中国国内における販売代理店の変更後、当該製品の購入に影響を及ぼさないため、顧客が新しい販売代理店と取引関係を構築することは不当とは言えない。」ことを強調した。つまり、裁判所は、このような事件の特殊性は、顧客が最も重んじるものは、取引相手ではなく、製品自体であることにあるという考えである。従って、製造者にとって、個別ケースが発生した場合、状況に応じて上記の抗弁理由を利用することが考えられる。