解雇予告手当の適用における落とし穴

    趙さんは上海某会社のセールスマネージャーを務め、基本給は、17,000元で、9月の給与(基本給+歩合給)は合計37,650元であった。しかし、社内組織変更により、10月3日に会社はセールスマネージャーの職位をなくすと決定するとともに、趙さんに対し15日後に退職するよう知らせた。その結果、趙さんは「会社が30日前までに通知しなかった」を理由に仲裁を提起し、解雇予告手当の支払を請求した。

    『労働契約法』第40条は、「使用者は 30 日前までに労働者本人に通知せずに労働契約を解除した場合、労働者に対し1ヶ月分相当の賃金を別途支給しなければならない。」と規定している。それは、解雇予告手当の法的根拠である。但し、実務において、解雇予告手当を適用する際に、幾つかの落とし穴がある。

    第一に、解雇予告手当の適用状況。『労働契約法』の規定によると、使用者が第40条の規定に従い一方的に労働契約を解除する場合にのみ、解雇予告手当を適用する必要がある。従って、使用者が労働契約解除の意思に労働者が同意した場合(合意解除)にも尚、解雇予告手当を支払う必要があるという観点は根拠に欠ける。

    第二に、解雇予告手当の支給基準。 
多くの人は、1ヶ月分相当の賃金については、経済補償金の計算方法を参照し、労働契約解除前の12ヶ月の平均賃金によって計算されると認識しているが、しかし、実は、その観点は間違いである。『労働契約法実施条例』では、「解雇予告手当は労働者の前月の賃金基準により確定しなければならない」と明確に規定しているのである。

    そして、問題となるのは、「労働者の前月の賃金基準」とは、前月の賃金の実際支払額を指すのか、それとも基本給を指すのか?例えば、歩合制や出来高制の場合は、シーズン?オフかオンシーズンかによって月給に雲泥の差がある可能性がある。実務においては、通常、労働者の前月賃金の実際支払額によって計算される。また、一部の地方司法機関は、賃金の実際支払額と正常な賃金額に大きな差異が存在する状況に対して、融通をきかせた柔軟な規定をしている。例えば、上海市高級人民法院による『<労働契約法>適用の若干問題に関する意見』[滬高法(2009)73号]第5条には、「労働法と労働契約法の立法主旨に基づいて、前月の賃金基準とは労働者の正常な賃金基準を指す。但し、前月の賃金により正常な賃金レベルを反映できない場合は、労働契約解除前の12ヶ月の平均賃金によって確定することができる。」と規定している。 

    なお、経済補償金の支払基準について、当該地域従業員の前年度の月平均賃金の 3 倍がその上限とされているが、「労働者の前月の賃金基準」について、同じ制限を受けているのか?この問題に関しては、法律には明文化されていないものの、実務において、司法機関は一般的に否定的な意見を持っているようである。

    上記の纏めとして、解雇予告手当は企業に経済的な負担をかけるとともに、一定のリスクを伴うことから、企業は解雇予告手当を適用するにあたり、以下のことに注意を払うよう勧める。(1)従業員を更に30日雇用しても価値を創出しない、又はデメリットがメリットより明らかに大きい場合を除き、30 日前までに書面により労働者本人に通知する方法が優先的に考えられる。(2)解雇予告手当を適用する場合に、前月の賃金が高すぎる又は低すぎる場合の調整方法の可能性について所在地の司法機関の観点を事前に確認し、支払基準を適切に把握する。