従業員が賃金未払いを理由に退職した場合、使用者は経済補償金を支払わなければならないのか?

『労働契約法』第38条及び第46条の規定によると、会社が労働報酬を適時かつ満額支払わなかった場合、従業員はこれを理由として労働契約を解除し、会社に対して未払賃金と経済補償金を請求することができる。

実務において、賃金の遅配、残業代の未払い、配置転換に伴う賃金の引下げなどは、従業員が上述の規定に基づき経済補償金を請求する根拠になり得る。

では、会社の賃金の支払いに遅延や不足がある場合、必然的に会社側に経済補償金の支払い義務が発生するのだろうか?

具体的な事例をもとに見ていこう。2017年に入社した王さんの賃金は基本給と業績考課に基づく変動給から構成されていた。2023年1月、会社は新たな業績考課案を公布し、固定基準による業績給を廃止し、変動制の業績給に変更した。2024年11月、王さんは会社が労働報酬を適時かつ満額支払わなかったとして労働契約を解除し、未払いの業績給及び経済補償金を請求した。仲裁委員会は王さんのすべての請求を認めたが、一審裁判所と二審裁判所はいずれも未払い業績給の請求のみ認め、経済補償金の請求については認めなかった(詳しくは(2025)滬02民終11106号をご参照ください)。

この事例から、会社が必ずしも経済補償金を支払わなければならないわけではないことが分かる。

『労働契約法』第38条の立法目的は、そもそも使用者による悪意ある労働報酬の遅配を防止することであるため、司法実務においては、使用者に「悪意」が認められるかについても考慮する必要がある。使用者の「悪意」の有無の判断においては、通常、以下の3つの要素が考慮される。

一、労働報酬遅配の原因。元労働部『<賃金支払暫定規定>関連問題に関する補足規定』の第4条では、賃金の支払いを適切に延期できる2つの状況を下記のとおり定めている。

(1)会社が不可抗力による自然災害、戦争などの原因に遭遇した場合。

(2)会社が生産経営上の困難、資金繰りに悪化の影響を受けた場合。」

上述のいずれかの状況に該当する場合は、会社の労働組合の同意を得た上で、労働者への賃金支払を一時的に延期することができる。延期可能な期間の上限については各省、自治区、直轄市の労働行政部門が各地の状況に基づいて定める。特に状況(2)の場合、特に労働組合の同意という手続要件を満たしているか、また所在地域における延長可能期間に関する規定に注意を払う必要がある。

二、労働報酬の遅配期間。『賃金支払暫定規定』第7条では、「賃金は約定された期日通りに支払わなければならず、その日が祝日又は休日にあたる場合は、直前の稼働日に前倒しして支払わなければならない」と規定している。但し、一部の地域では合理的な遅配期間について別途規定を設けている。例えば、『深セン市従業員賃金支払条例』第12条では、「正当な理由がある場合は、5日間延期できる」としている。『北京市高級人民法院、北京市労働人事争議仲裁委員会の労働争議事件の審理に関する解答(一)』第54条では、「原則として約定された支払日の7日を超えてはならない」と定めている。実務においては、地方性規定が存在する倍委であっても、特に景気低迷期においては、個々のケースに応じて、合理的な遅延期間が認められる場合がある。例えば、(2022)京民申5584号事件において、労働契約では「毎月10日までに賃金を支払う」ことを約定しているが、実際の支払日は通常15日、遅い場合は23日に支払われた。約定の支払日を13日遅れていたが、裁判所は経済補償金の請求を認めなかった。『賃金支払暫定規定』では「通常、賃金は毎月支払わなければならない」ことを定めていることを踏まえると、個別事案において賃金の遅配期間が1ヶ月未満の場合、経済補償金の請求が認められる確率は比較的低い。

三、労働報酬支払遅配の範囲。『〈労働契約法〉の適用の若干問題に関する上海市高級人民法院の意見』第9条では、「計算基準が不明確、または計算基準に関して意見の相違があることを理由に、賃金が適時に満額支払われなかった場合、労働者はこれを根拠に契約解除を求めることはできない」ことを定めている。これは冒頭の判例の裁判論理でもある。実務において労働報酬支払遅配の範囲については、多くの見解が見られる。例えば、年休賃金を満額支払わなかったことを理由に労働契約を解除し、経済補償金の支払を求める事案について、北京、上海、広東では労働者の請求は認められない。例:(2022)京03民終2232号、(2024)粤民申18941号、(2024)滬01民終11005号。一方、重慶では労働者の請求を認めたケースもある。例:(2023)渝民01民終1976号。また、高温手当を満額支払わなかったことを理由に労働契約を解除し、経済補償金の支払を求める事案において、上海、青島は労働者の請求を認めていない。例:(2023)滬0117民初6207号、(2022)魯02民終712号。これに対し、江西省『高温手当基準調整の関連問題に関する通知』の第6条では、「労働者は使用者が高温手当の未払い、又は高温手当の不当な控除を理由として労働契約を解除する場合、使用者は『労働契約法』の規定通りに経済補償金を支払わなければならない」ことを定めている。

以上のとおり、会社は客観的な状況により支払が困難な場合であっても、安易に労働報酬の支払いを遅延するべきではない。状況に応じてリスクの程度を判断し、必要に応じて適切な措置を講じなくてはならない。