産休中の業績給は支給しなくてもいいのか

判例1:王さんは会社のビジネスマネージャーである。会社との労働契約では「賃金は基本給と業績給によって構成される。業績給については試用期間中は1500元/月、試用期間満了後は、2500元/月とする。」と規定されていたが、産休中の王さんに対し業績給は支払れていなかった。そのことに気づいた王さんは、労働仲裁を提起し、最終的に労働仲裁委員会、一審裁判所、二審裁判所はいずれも会社に対し産休中の業績給の支払いを命じた((2019)粤03民終29214号判決書)。

判例2:林さんは2018年6月に某会社と労働契約を結び、「基本給は税引前金額を13,043元とし、業績給は業績、報酬管理の関連制度に基づき別途確定する。」ことを約定した。2020年5月、林さんは128日間の産休を取り、産休期間中に出産手当金を取得した。2021年6月に契約が終了した後、林さんは労働仲裁を提起し、「会社は未払いである業績給を支払うべきである。」ことを主張した。労働仲裁委員会、一審裁判所、二審裁判所はいずれも、「同社の規定によると、業績給は評価によって支給される。林さんは産休期間中に労働を提供しておらず、業績給を主張する権利がない。」と判断した(滬01民終16395号判決書)。

『女性従業員労働保護特別規定』第5条には、「雇用企業は、妊娠、出産、授乳を理由に女性従業員の賃金の引き下げ、解雇、および労働契約や雇用契約の解除を行ってはならない。」と規定している。但し、本条に規定されている“賃金”に、業績給を含むか否かについては不明確である。実務においては具体的な状況によって分析する必要がある。

地域的な問題を考慮しない場合、通常、下記のように考え、分析する。

判断の要素傾向的な結論
業績給が固定額である。(冒頭の判例1のように)支給すべき
業績給が変動する業績評価基準がない支給すべき
業績評価基準があるが、実際には運用されていない支給すべき
業績評価基準があり、実際に運用されている業績評価基準が勤怠状況のみに依る通常、司法機関は支給を命じる。 ※産休は通常出勤扱い
業績評価基準が明確で、かつ「業績評価に不参加である、または業績がない従業員には業績給を支給しない」ことを明確に規定している司法機関は支給を命じない可能性がある

上記の表にあるように業績評価基準があり、かつ実際に運用されている場合は、地域的な問題を考慮する必要がある。

現時点で広東省が産休を取得する女性従業員に最も良心的な地域であると思われる。『広東省における<女性従業員労働保護特別規定>の実施弁法』第13条第2項には、「女性従業員の元賃金基準とは、女性従業員が法に基づき産休または計画出産手術休暇を取得する前12か月間の平均月給を指す。12か月の平均月給は、女性従業員が取得すべきすべての労働報酬に基づいて計算し、時間給または出来高給、ボーナス、手当、補助金などの貨幣性収入を含む」と規定している。そのため、広東省の企業は業績給を原則、支給する必要がある。経営不振など特殊な状況において、全従業員に支給されていない場合は、例外的に司法機関は産休中の女性従業員に業績給を支給しないことを認める可能性がある。

その他の地域、例えば上海の裁判所(冒頭の判例2)及び北京、四川などの裁判所は、「業績評価基準が明確で、かつ業績評価に不参加であった、又は業績のない従業員に業績給を支給しないことを明確に規定している場合は、規則通りに執行する」ことを認める傾向が見られるようだ。

全体的に言えば、具体的な評価内容、基準などが異なるため、ケースバイケースで慎重に判断・処理する必要がある。