雇用者責任保険を選択するか、それとも人身事故保険を選択するか?

まず2つの事例を見てみよう。

A社は従業員の労災保険料の納付は行っておらず、団体意外(団体傷害)保険に加入していた。業務中に負傷した孫さんは、保険会社から保険金の支払いを受けた後、訴訟を提起し、A社に対し労災保険による補償を請求した。A社は孫さんがすでに保険会社から保険金を受け取っているため、二重賠償を受けるべきではないと抗弁したが、一審と二審の裁判所は最終的に孫さんの請求を認めた。

B社は従業員の労災保険料の納付は行わず、雇用者責任保険に加入していた。郭さんが業務中に負傷した際、B社は労災保険に加入していなかったため、両者は「B社が郭さんに労災賠償金として40万元を支払う」ことで合意した。その後、保険会社が36万元を支払い、B社は4万元を別途支払った。しかし、郭さんは「保険会社の賠償金は商業保険に基づいたものであり、36万元はB社が支払うべきだ」と主張し、両者の間で紛争が生じた。郭さんは訴訟を提起し、B社に対し労災保険待遇と経済補償金の全額支払いを請求した。一審裁判所は郭さんのすべての請求を認めた。二審裁判所は、「B社が加入していた商業保険は雇用者責任保険に属し、受益者は会社であるため、保険会社が支払った36万元はB社が賠償すべき金額と相殺することができる」と指摘し、経済補償金の支払請求を認めた判決を覆した。最高裁判所は郭さんの再審請求を棄却した。

上記の事例から、労災保険は法定保険であり、商業保険(特に人身事故保険)では代替することはできないことが分かる。企業が労災保険料の支払いを行っている場合、商業保険に加入するか否か、どのような商業保険に加入するかについては、企業の目的に合わせて選択する必要がある。

企業の目的が従業員に対する福利厚生の充実であれば、団体意外保険を選択するとよい。人身事故保険の受益者は通常個人であるため、従業員が直接保険金を受け取ることができる。また、その保障範囲は業務上の傷害や職業病に限らない。例えば、従業員が出張中、休憩時間を利用した登山中に事故に遭った場合、人身事故保険による補償を受けることができる。同じ状況でも雇用者責任保険では補償の対象とならない。但し、冒頭の事例1のように、業務中に負傷し、従業員が人身事故保険による補償を受けた後、企業に労災賠償責任を請求する場合は、認められることが多い。

会社の目的が企業の労災賠償責任を移転することであれば、雇用者責任保険を選択するとよい。雇用者責任保険は通常、企業を受益者とし、保険者である企業と被保険者である個人との間に労働又は労務関係が存在することがその前提となる。一般的に企業は雇用者責任保険の受益者であり、企業が受け取る保険金は、労災保険規定に基づく企業が負担すべき賠償額と相殺することができる。そのため労災発生時の企業の負担を軽減することができる。また、雇用者責任保険の保障範囲は業務上の傷害と職業病に限られ、人身事故保険よりはるかに狭い。しかし、団体意外保険の賠償責任と比べて、雇用者責任保険の賠償範囲は広く、障害者補助金と医療費以外に、1回限りの就業補助金、休業損害、介護費などの補償を受けることができる。