代理店契約における価格制限の合意は独禁法に違反するか?

    今年の年初以来、幾つかの独占合意事件(所謂カルテル)が広く注目を集めている。先ず、国家発展改革委員会は年初に「茅台酒」、「五粮液」による転売価格の固定について調査を行い、その後複数の粉ミルク会社による最低転売価格の限定行為について調査を行った。最近では、上海高級裁判所による、ジョンソン・エンド・ジョンソン医療器械会社(以下J社という)が代理店契約において価格制限を設けることは独占行為に該当するという二審判決が、垂直型独占合意に対する企業の関心を大いに集めている。これらの事件の影響で、多くの企業、特に業界に影響力を有する大手企業は代理店契約の関連約定の法的リスクを懸念することになっている。  

    従来、独占といえば、通常は同業者同士間又は業界協会内部で約定等することにより競争を排除又は制限する水平型独占がまず思い出される。それと異なる垂直型独占とは、経営者とその上流又は下流にある取引相手による、競争を排除、又は制限する合意、決定、及びその他の協調行為を指す。実は、垂直型独占については、2008年より施行された『独占禁止法」第14条において、再販価格を固定する、或いは再販価格の下限を設ける等行為が禁止の対象として明文化されている。但し、水平型独占であれ、垂直型独占であれ、判断する際にいずれも競争を排除、又は制限する効果が生ずることを前提としなければならない。現実には、競争を排除、又は制限する効果が生ずるかについての認定基準、及び訴訟における証明責任の分配は、独禁法分野の難題である。一方、2012年6月より施行された最高裁判所の司法解釈では、水平型独占において、関連の合意によって競争を排除又は制限する効果が生じないことを証明する責任は、被告側にある、と規定しているが、垂直型独占については、このような規定を定めていない。

    上記の背景の下、上海高級裁判所は、J社とその元代理店である鋭邦会社間のカルテル紛争事件の二審判決において、最高裁判所の司法解釈における水平型独占に関する証明責任分配の関連規定を垂直型独占に類推適用してはならず、「主張する者がその証明責任を負う」という訴訟法の一般原則に従い、本件に係る最低再販価格についての合意には、競争を排除しまたは制限する効果が生ずるかについて、鋭邦会社がその証明責任を負うべきだ、と述べた。また、その一方で、このような事件の双方当事者間での情報の非対称性があることから、鋭邦会社が、関連市場での競争力が不十分であること、J社が強力な地位を持っていること、J社の行為の動機、及び本件に係る商品の再販価格の限定による市場競争への不利な影響などに関する証拠を提出した後、J社がそれを反駁する証拠を提出しなければならない、と判断した。

    従って、垂直型独占紛争事件の証明責任の分配については、司法部門は、明確かつ統一的な規定はまだないと言えよう。 

    現行の法令とJ社の独占紛争事件の啓示を結びつけて考えると、垂直型独占と認定される法的リスクを削減するために、企業にとっては下記の方面において一定の予防措置を講ずることが必要だと考えられる。 

    まず、商業策略の点から、関連の契約において再販価格の制限に関することを定めるとき、事前に下記の要素を確認・評価する必要がある。一つ目に、再販価格制限行為が、「独占禁止法」第15条で定める七つの例外状況のいずれかに合致するか(特殊な状況を除き、このような場合、経営者は、達成した合意により関連市場の競争を厳重に制限せず、かつ消費者がそれによる利益を享受できることを確保しなければならないという点に注意)。二つ目に、仮に前述の独占禁止法第15条の関連規定に合致しない場合、一般的に、以下の方面において独占と認定されるリスクを確認・検討し、その対応策を設ける: ①関連の市場での競争力が十分であるか。②企業が関連市場で強力な地位を持っているか。③企業の再販価格制限行為の動機。④再販価格の制限による競争の効果など。 

    次に、前出発展改革委員会による一連の価格カルテル調査、及びJ社の敗訴事件等のケースから、垂直型独占の取締りがきびしくなってきている傾向が感じられる。証明責任の分配に不確定性があり、又独占の認定基準もまだ明確にされていない状況の下、企業は、出来る限り、リベート政策の活用等価格制限でない策略を運用するべきである。