実物資産で債務を返済する場合の注意点
近年、債務紛争が頻発しており、キャッシュフロー不足に悩む多くの企業が、不動産、車、貨物などにより債務の返済を行っているが、現金に比べて多くのリスクを伴うため、多くの債務者は実物資産で債務を返済することに躊躇する。しかし、現在の経済情勢においては、実物資産で債務を返済するリスクを十分に考慮した上であれば、実物資産で債務を返済することも有効な妥協案であると言える。
一般的に言えば、実物資産で債務を返済することのリスクは主に4つある。
一、物の所有権。物による債務返済を受け入れる前に、債権者は債務返済に用いられる物の所有権とその状態を慎重に審査する必要がある。不動産、車などの登記財産においては、所有権が不明、証明書が不完全、または流通が制限される財産を回避するため、登記されている所有権者が債務者であるか否かを確認し、共有者の有無、抵当、質入れなどの担保物権に設定されていないか、裁判所による差し押さえ、凍結の有無、及び実際の占有状況を調査しなければならない。(2023)粤民終2241号事件では、A社は債務返済のため、不動産をB社の実際の権益者であるC氏に与えたが、A社とD社の間で発生した債務問題のため、当該不動産は裁判所により差し押さえられた。その後C氏は執行異議の訴えを起こした。最終的に広東高級裁判所が協議書の落款日、支払証明書の備考、債権債務関係の認定などを総合的に考慮した結果、「C氏は強制執行を排除するのに十分な民事権益を享有していない。B社がA社の不動産を通じて債権の弁済を実現する見込みはないと予想される。」と判断した。
二、物の価値。債務返済に用いる物の価格は公正かつ合理的でなければならない。もし市場の正常な価格から大きく乖離している場合、裁判所は虚偽の訴訟であるか否かを重点的に判別するため、棄却または調整となる可能性がある。より確実なのは、第三者機関に評価を依頼することである。債権者は債務返済に用いる物の価格を確定する時、債務返済に用いる物の市場価値を十分に考慮する必要がある。例えば、多方面からの照会、市場価格の比較によるクロス検証、保有コストと税金負担に対する合理的な試算を行い、書面証拠を保管する。不動産については、購入制限、不動産税など様々な要素があるため、不動産で債務を返済することを受け入れる場合、不動産の価値をより多くの要素から考慮する点には特に注意しなければならない。
三、物の所有権移転手続。実物資産で債務を返済することを受け入れた後、債権者は直ちに債務返済に用いられる物の物権変動手続に取り掛からなければならない。民法典契約編通則司法解釈第27条第3項には、「実物資産で債務を返済する協議書が人民法院によって確認された場合、または当事者が合意した物による債務返済の協議書に基づき人民法院が調停書を作成した場合は、財産権が確認書と調停書の発効時に変更された、または善意の第三者に対抗する効力を有するという債権者の主張を人民法院は認めない。」と規定している。このことから、実物資産で債務を返済する協議書に合意し、または裁判所の確認や調停を経た場合であっても、善意の第三者に対抗することができない。つまり、基礎債務の履行期間満了後に締結された物による債務返済の協議書について、債権者は一般債権を有するものの、物権が変更されるまでは、優先的に弁債を受ける権利を享有していないため、直ちに物権変動手続しなければならない。不動産や車などの特殊動産については、変更登記手続を行い、具体的に現地の不動産取引センターや車両管理所などに相談するとよい。一般動産については、通常、占有を移転するものとする。各地で変更登記手続の要求が異なる可能性があるため、事前に関係部門に必要書類の確認をしたほうがよい。
四、実物資産で債務を返済することが履行できない場合のリスク。民法典契約編通則司法解釈第27条第2項には、「債務者または第三者が物による債務返済の協議書を履行後、人民法院は同時に相応の元の債務が消滅したと認定する。債務者または第三者が約定通りに物による債務返済の協議書を履行せず、催告を受けた後も合理的な期限内に履行せず、債権者が元債務の履行または物による債務の返済の協議書の履行を請求する場合、人民法院はそれを認める。ただし、法律で別途規定がある場合、または当事者が別途約定を行った場合を除く。」と規定している。このことから、物による債務の返済を受けることができなかった場合、債権者は二者択一の法定権利も持つことになる。但し、物による債務返済の協議書に「本協議書の締結日から、債権者は債務者にいかなる権利を主張してはならない」というような約定がある場合は、「当事者が別途約定を行った」状況に該当するため、物による債務返済を受けることができない場合でも、債権者は債務者に継続履行を要求する権利を失い、物による債務返済の協議書に基づき関係者の責任を追及するほかない。