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    『刑法改正案(十二)』による外資企業の不正防止に及ぼす影響

    『刑法改正案(十二)』は2023年12月29日に全国人民代表大会常務委員会の審議を経て可決され、2024年3月1日から施行される。今回の改正は、外資企業の不正防止に大きな影響を与えるものであるため、注目に値する。

    1、「収賄は重く処罰、贈賄は軽く処罰」から「贈賄罪と収賄罪共に重んじて処罰する」への転換は、贈賄行為を抑制につながる一方で、企業の不正防止調査における贈賄者を「寝返らせる」ためのリニエンシー制度の適用範囲と可能性を縮小させる可能性がある。 

    賄賂は現金で渡したり、第三者に振り込んだりすることが多いため、隠蔽力が強く、証拠を集めるのが非常に難しい。長い間、捜査機関は贈賄者と収賄者の攻守同盟を破り、収賄者を調査処罰するために、司法取引を通じて「汚点証人」(注:罪滅ぼしに手柄を立てる容疑者)を利用して証拠を得る必要があった。そのため、刑法では贈賄罪について明文化されているにもかかわらず、収賄者が刑事罰を受ける件数と比べると、贈賄行為で刑事責任を追及されるケースはかなり珍しい。

    2015年に公布された『刑法改正案(九)』では、贈賄罪に対して罰金刑の追加、寛大処罰の条件の厳格化、規制対象の拡大など、贈賄犯罪への打撃を強化することが示されている。翌年、最高人民法院、最高人民検察院が共同で公布した『汚職・賄賂刑事事件司法解釈』では、贈賄罪の金額、情状、対象などを一層明確にしている。

    近年、情報ネットワーク化の進展により、捜査機関はビッグデータ技術を広く利用して証拠を収集できるようになってきた。しかし同時に、「贈賄は軽く処罰する」が、継続的な腐敗の原因となり、賄賂は依然として普遍的に存在している。

    このような背景下で、『刑法改正案(十二)』では、贈賄犯罪に対する処罰をさらに強化した。具体的には、

    ポイント 条文 具体的な規定
    「重く処罰する」状況を7つ追加 刑法第390条 以下のいずれかの状況に該当する場合は、重く処罰する。

    ①     複数回または複数の人に贈賄を行った場合。

    ②     国家職員が贈賄した場合。

    ③     国の重点工事、重要プロジェクトで贈賄した場合。

    ④     職務、昇進、調整を図るために贈賄した場合。

    ⑤     監察職員、行政法律執行職員、司法職員に贈賄した場合。

    ⑥     生態環境、財政金融、安全生産、食品医薬品、防災・災害救援、社会保障、教育、医療などの分野で贈賄し、違法犯罪活動を行った場合。

    ⑦     違法所得を贈賄に用いた場合。

    組織に贈賄する犯罪の刑罰を追加 刑法第391条 従来の「3年以下の懲役または拘留に処し、罰金を併科する」という単一の法定刑を踏まえ、「情状が深刻な場合は、3年以上7年以下の懲役に処し、罰金を併科する」という法定刑を追加した。
    組織による贈賄犯罪の刑罰を追加 刑法第393条 従来の「最高5年の懲役」の単一の法定刑から、「3年以下の懲役または拘留」と「3年以上10年以下の懲役」の2つに調整した。

    贈賄犯罪の立法沿革や国の腐敗防止動向からみて、贈賄犯罪への取り締まりは一層厳格化している。このような状況下では、贈賄者の懸念するため、企業の不正調査における、贈賄者が賄賂の事実を自白することで、企業が贈賄者への責任追及を放棄することで合意するリニエンシー制度の効果が得られにくくなる。企業の不正調査の難易度が一定程度上がるだろう。

    一方、今回の改正案では、リニエンシー制度実施の余地を増やす一面もある。『刑法改正案(十二)』第390条第3項では、贈賄者が処罰の軽減又は免除を受けられる事由のうち、「犯罪が比較的軽い場合」、「重大事件の解決に重要な役割を果たした場合」、「大きな手柄を立てた場合」をそのまま踏襲し、「重大事件の捜査・突破に肝心な役割を果たした場合」の事由を追加した。

    二、同類営業不法経営罪、親戚や友人のための不法営利罪、私欲私利のための会社持分低額譲渡・資産低廉売却罪の適用範囲は国有企業以外の一般企業にまで拡大し、外資企業の不正防止の手がかりとなる。  

    上述の三つの罪に相応する条項はそれぞれ刑法第165条、第166条、第169条である。一般企業関係者を対象とする構成要件及び刑罰は以下の通りである。

    罪名 構成要件
    同類営業不法経営罪 • 対象者:取締役、監査役、高級管理職

    • 行為:法律、行政法規の規定に違反し、職務の便宜を利用して自分の在籍する会社、企業と同類の事業を自ら経営し、または他人のために経営し、不法な利益を得て、その金額が莫大である

    • 結果:会社や企業が重大な損失を被る

    •金額が莫大の場合は、3年以下の懲役または拘役に処し、罰金を併科または単科する

    •金額が非常に莫大の場合は、3年以上7年以下の懲役に処し、罰金を併科する

    親戚や友人のための不法営利罪 • 対象者:担当者

    • 行為:法律、行政法規の規定に違反し、職務の便宜を利用して下記のいずれかの状況に該当する:

    ①その在籍する会社の営利業務を自分の親友に任せて経営させる

    ②市場より明らかに高い価格で、自分の親友が経営管理している組織から商品を購入し、サービスを受けるか、または市場より明らかに低い価格で自分の親友が経営管理している組織に商品を販売し、サービスを提供する

    ③自分の親友が経営管理している組織から規格外の商品やサービスを購入したり、受け取ったりする

    • 結果:会社や企業が重大な損失を被る

    •会社や企業が重大な損失を被った場合は、3年以下の懲役又は拘留に処し、罰金を併科又は単科する

    •会社や企業が非常に重大な損失を被った場合は、3年以上7年以下の懲役に処し、罰金を併科する

    私欲私利のための会社持分低額譲渡・資産低廉売却罪 • 対象者:直接責任を負う主管者

    • 行為:私欲私利のために、会社や企業の持分を低額で譲渡し、または資産を安値で売却する

    • 結果:会社や企業が重大な損失を被る

    •会社や企業が重大な損失を被った場合は、3年以下の懲役又は拘留に処する

    •会社や企業が非常に重大な損失を被った場合は、3年以上7年以下の懲役に処する

    注意すべきことは、同類営業不法経営罪と親戚や友人のための不法営利罪は、いずれも「法律、行政法規の規定に違反する」という前提を満たす必要があるということである。具体的にどのように解読・適用するかは、司法解釈を通して明確にしていく必要がある。

    また、『公安機関管轄の刑事事件の立件追訴基準に関する規定(二)』(公通字201023号)によると、当初国有企業にのみ適用されていた同類営業不法経営罪の立件基準は「不法利益を得て、その金額が10万元以上の場合」であり、親戚や友人のための不法営利罪の立件基準は「国に直接的な経済損失をもたらし、その金額が10万元以上の場合;その親戚や友人が不法利益を得て、その金額が20万元以上の場合;関係組織が破産し、廃業・生産停止期間が6ヶ月以上で、または許可証と営業許可証を取り消され、閉鎖・廃止・解散を命じられた場合」であった。しかし、2021年9月20日から施行されている『監察法施行条例』によると、同類営業不法経営罪と親戚や友人のための不法営利罪の2種に係る事件が監察機関による立件調査に変更された。そのため、2022年5月15日から施行されている改正版の『公安機関管轄の刑事事件の立件追訴基準に関する規定(二)』では、当該2種の罪の立件基準規定が削除された。『刑法改正案(十二)』の施行後、従来の立件基準を参照するのか、それとも新しい立件基準を打ち出すのかについては注目に値する。