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    馳名商標(注:著名商標)はお守りなのか、それとも鶏肋なのか

    2013年商標法改正前、馳名商標は多くの企業に栄誉称号と見なされ、企業の対外宣伝のセールスポイントとされていた。それは、商標法が馳名商標制度が設けられた最初の意図とは異なる。商標法2013年改正案の実施に伴い、広告宣伝などに馳名商標を用いてはならないということが明文化された。そのため、多くの企業は「馳名商標は何の役にも立たない鶏肋だ」という認識を持つようになった。

    最近、『商標法改正草案(意見募集稿)』が公布され、その中には馳名商標への保護強化が含まれており、企業の注目を集めている。では、馳名商標はいったいお守りなのか、それとも鶏肋なのか?

    結論から言えば、広告宣伝のために馳名商標を得ようとする場合、認定されたとしても鶏肋となるどころか、不適切な使用によって行政罰を招くリスクにもなる。馳名商標の実質的な価値は普通の商標と比べ、法による特別な保護を受けることができることにある。法による特別な保護とは、主に以下の通りである。

    1.未登録馳名商標の「同じ区分での保護」

    商標法第13条第2項によると、同一又は類似の商品について登録出願された商標が、中国で未登録の他人の馳名商標を複製、模倣又は翻訳したものであり、容易に混同を生じさせるときは、その登録を認めず、かつその使用を禁止する。

    これは商標法が未登録の馳名商標を保護するメカニズムである。具体的には、よく知られているブランドは国内で商標登録出願が行われずに、他者が先行して商標登録出願を行う場合、企業は商標局に馳名商標認定を申請し、商標局に行政手続を通じて他人の先行登録出願を却下を求めることができる。また馳名商標司法解釈第2条の規定に基づき、権利侵害事件において馳名商標の認定を申請することにより、権利侵害者の継続使用を阻止することができる。例えば、「パリバケット」商標権侵害事件(事件番号:[2018]京73民初316号、[2021]京民終438号)において、裁判所は「被告の行為は、「巴黎貝甜」と「PARIS BAGUETTE」商標について、ファーストフード店サービスにおける原告の未登録馳名商標の権益を侵害しており、関連侵害行為を直ちに差し止めるべきである。」と述べた。

    2.登録済み馳名商標の「区分を超えた保護」

    商標法第13条第3項によると、非同一又は非類似の商品について登録出願された商標が、中国で登録されている他人の馳名商標を複製、模倣又は翻訳したものであり、公衆に誤認を与え、当該馳名商標登録者の利益に損害をもたらし得るときは、その登録を認めず、かつその使用を禁止する。

    このような状況は馳名商標の認定において最も普遍的である。有名ブランドにとって、全ての区分における商品の商標登録を行なったら、非常に大きなコストがかかる。しかし、商標登録をせずに、他人に「便乗される」と、企業に悪影響をもたらす可能性がある。馳名商標の認定により、「区分を超えた」保護を受けることができる。例えば、(2022)京民終170号「百度」商標権侵害事件において、被告の京百度会社が提供したサービスは、「百度」商標の指定サービスと同一又は類似のサービスには属さないが、裁判所は、百度会社からの馳名商標認定の要請が認められ、「百度」商標は、「区分を超えた」保護を受けることが可能となった。そして、当該事件において、裁判所は、京百度会社の権利侵害行為の成立を認定した。

    明確にすべきことは、「区分を超えた」保護と言っても、限界があり、全ての区分において保護を受けられるわけではない。商標法の前述の規定によると、馳名商標の「区分を超えた」保護を受けるには、「公衆を誤解させ、これによって当該馳名商標登録者の利益が損なわれる可能性がある」という前提条件を満たす必要があり、全ての非同一又は非類似の商品に無条件で拡大できるわけではない。(2020)滬民終538号「巨人」商号を巡る不正競争紛争事件において、上海の高級裁判所は、以下のことを指摘した。「中国は馳名商標に対して適度な「区分を超えた」保護を実施している。保護の範囲は具体的な事件の状況によって、その著名度、顕著性、訴えられた権利侵害商品との関連度などの要素を考慮して、ケースバイケースで合理的に確定すべきである。本件四原告は、「巨人」の登録商標が原告の使用・宣伝を経て、ゲーム業界で高い知名度を持っていることを証明できるが、その知名度は係る商標の指定サービスに限られている。係る商標の指定サービスと被疑侵害商品のそれぞれの消費者は明らかに異なり、しかも「巨人」という言葉は共通語であり、顕著性は高くない。そのため、既存証拠は、「巨人」商標が馳名商標と認定される条件を備えていることを証明するには十分ではない。」

    3.無効審判手続きにおける時効の制限を打ち破る

    商標法第45条によると、登録済み商標が、この法律の第13条第2項と第3項の規定に違反した場合、商標登録日から5年以内に、先行権利者又は利害関係者は商標評価審査委員会に対して当該登録商標の無効審判を申立することができる。悪意のある登録である場合、馳名商標所有者は5年間という時効上の制限を受けない。

    そのため、係争中の商標が5年以上登録されており、企業がその商標の無効を申立したい場合は、馳名商標の認定を求めると同時に、悪意のある登録であることをを主張し、係争中の商標を無効化を試みることができる。

    4.不正競争防止法からの特別保護

    商標法第58条によると、他人の登録商標、登録されていない馳名商標を企業名称における商号として使用し、公衆に誤認を生じさせ、不正競争行為にあたる場合は、『不正競争防止法』により処理される。

    上述の「百度」紛争事件において、裁判所は当該規定を踏まえて、各被告に対して企業名に「百度」の文字の使用を停止するよう判決を下した。裁判所は、「原告の「百度」の商標は全国的に高い知名度と影響力を持っている。五被告は「百度」に類似する「京百度」を企業の商号として使用し、原告の「百度」の商標の名声を利用し、故意にその名声に便乗しようとしており、客観的にも五被告と原告の間に関連関係があるという関係大衆の誤認を招く。これによって五被告の投資や経営主体に対する誤認が生じ、サービス出所の混同がもたらされ、不正競争になる。」と判断した。

    5.ネットワークドメイン名の特別保護

    『コンピュータネットワークドメイン名に係る民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する最高人民法院の解釈(2020改正)》第4条によると、人民法院はドメイン名紛争事件を審理するときに、被告ドメイン名又はその主要部分が原告の馳名商標を複製、模倣、翻訳、音訳したもので、又は原告の登録商標、ドメイン名などと同一もしくは近似し、関係大衆の誤認を引き起こすに足る場合、被告の登録、ドメイン名の使用などの行為を権利侵害又は不正競争と認定する。

    そのため、馳名商標はドメイン名の先行登録を防ぐのに役立つ。(2021)京0491民初10619号「今日頭条」事件において、裁判所は「原告は、「頭条」、「今日頭条」、「TOUTIAO.COM」などの商標権を取得した。そのうち「今日頭条」の文字商標は遅くとも2017年5月までに馳名商標になっているため、ドメイン名「toutiao.com」に対して権益を有すべきである。従って、原告が上述の商業標識に対して有する合法的な権益は保護を受けるべきである。」と指摘した。

    最後に、文頭で述べたように、今回の『商標法改正草案(意見募集稿)』では、馳名商標に関連する司法解釈における稀釈化防止に関する規定が組み込まれており、「使用し、又は登録出願をした商標は、他人が広く知られている馳名商標を複製、模倣、又は翻訳したものであり、当該商標と当該馳名商標の間に一定の関連性を持っているという関係大衆の誤認を引き起こすに足り、これによって馳名商標の顕著な特徴を弱め、馳名商標の市場名誉を損ない、或いは、馳名商標の市場名誉を不正に利用した場合、当該商標の使用は禁止され、商標登録は認められない。」ことが定められている。上記の規定が正式に公布されれば、馳名商標に対する稀釈化防止は、民事紛争分野から行政分野に広げることになる。

    この記事を参考に、貴社にとって、「馳名商標の認定を求めることは価値があるのか?」について一度、考えてみてください。