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    中国商標権侵害事件における法定賠償額の認定

        中国の現行商標法では、①商標権侵害による原告の実際の損失、②商標権侵害による被告の利益、③商標使用許諾料の合理的倍数、④法定賠償額という4つの損害賠償額の計算方法を規定している。しかし、調査結果[1]によると、実務において、商標権侵害行為が認められた事件のうち、90%以上の事件において、法定賠償の計算方法が採用されている。

        『最高人民法院による商標民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈』(以下『解釈』という)第16条第2項の規定によると、人民法院が法定賠償額を決定する際は、侵害行為の性質、期間、結果、商標の名誉、商標使用許諾費の金額、商標使用許諾の種類、時間、範囲及び侵害行為を制止するための合理的支出などの要素を総合的に考慮して決定しなければならないとしている。しかし、上述の要素以外に、例えば、商標権者が商標を普及するための支出、商標の実際の使用状況などを考慮すべきか否か、各要素の重要性をいかに把握するかなどは明確にされていない。

        その結果、法定賠償は基本的に裁判官の「当てずっぽう」によるものとなり、同一の事件においても、異なる判決が下されるケースも多い。例えば、新百倫(注:「New Balance」)商標権侵害事件において、第1審では法定賠償として9800万元の損害賠償が認められていたが、第2審では500万元の損害賠償額しか認められなかった。「紫玉山荘」が「紫玉公館」を訴えた商標権侵害事件についても、第1審では100万元の損害賠償が認められたが、第2審では法定賠償額が300万元に変更された。これは、明確な判断基準の欠如による法定賠償額の増減の任意性問題がある程度反映されている。特に、近年来、法定賠償の最高額300万元超の賠償を命じたケースは増えつつあり、かつそのような傾向は強くなってきている。上記の司法の姿勢は、侵害者に対して抑止力を向上させる一方、権利者にとっては、いかに賠償請求額を設定し、かつ相応の証拠を準備するべきかが、やはり難題となる。一方で、北京高等裁判所による『当面の知的財産権審判における注意すべき若干の法律上の問題』では、「裁量による賠償額」という概念を規定し、「法定賠償額に該当しないため、法定賠償最高額による制限を受けない」と指摘しているが、それは立法と司法との不一致を回避するための対策であると同時に、権利者に対する保護を強化する傾向を示すものに過ぎないと理解すべきではないかと考える。

        商標権者は、商標権侵害による損害の証拠が不十分である場合、法定賠償額が適用される確率が高いため、司法機関の考慮要素及び所要証拠に特に注意すべきである。前述の立法と司法実務の現状から見れば、既存判決により司法実務における判断規則及び要素を把握することは着実に実行できる方法であると思われる。

        「北大法宝」に掲載されている、法定賠償を採った1300件以上の商標権侵害事件を纏めたところ、通常、裁判官は以下の要素を考慮している。(1)商標の名誉、知名度;(2)侵害者の主観的過失;(3)権利侵害行為の悪質程度;(4)権利侵害に係る製品の価格、権利侵害期間及びその結果;(5)合理的費用。

        意外なことに、『解釈』に規定されている「商標使用許諾費の金額、商標使用許諾の種類、時間、範囲」は、一般的に裁判官が法定賠償を適用する際の考慮要素に含まれていない。  

        侵害者の主観的状態については、『解釈』でいう要素に取り入れられていないが、実際に法定賠償額の認定に大きな影響を及ぼしている。例えば、「MONCLER」商標権侵害事件(〔2014〕京知民初字第52号)において、裁判所は、6つの要素を分析し、その内「4、被告がその製造した服装に製造者名を故意に表示せず、権利侵害行為が明らかに悪意に満ち、権利侵害の結果が深刻である」という要素が含まれており、最終的には法定賠償額として300万元の損害賠償を認めた。

        「合理的費用」の認定は比較的容易で、一般的に権利者が支出した「権利侵害品の購入費用」、「弁護士費用」、「公証費用」など権利保護費用が含まれる。商標権者が費用について明確な費用証憑等を提供する限り、通常、裁判所はその全て又は一部を認める。但し、普遍的な状況として、多くの事件では、合理的費用が単独で明記されず、認められた賠償総額に含まれる。例えば、「新百倫」商標権侵害事件、「墻錮」商標権侵害事件、「MONCLER」商標権侵害事件など。但し、一部の裁判官—特に浙江省と江蘇省の一部の裁判官は、合理的費用を明確に区分する必要があると認識しており、かつその判決にも反映されている。

        又、登録商標の知名度、権利侵害品の規模、持続期間なども法定賠償額の認定に大きな影響を与えるため、権利者は関連証拠を収集する際に特に注意を払うべきである。

        なお、実務において、権利侵害品販売に対する商標の貢献度は法定賠償額の判断要素になる傾向が見られる。従って、権利者はそれに関連する証拠の収集に注意を払う必要があると思われる。

        最後に、一部の地方裁判所は、既に比較的に具体化された法定賠償額の判断規則を公布した。例えば、上海高級人民法院による『知的財産権侵害紛争における法定賠償方法の適用による賠償金額確定の若干問題に関する意見(試行)』では、「商標の顕著性、商標の価値、デザインコスト、広告支出、商標価値の育成費用、市場開拓コスト、商標の実際の使用状況及び収益」などを含んだその他の要素が列挙されている。北京高級人民法院による『当面の知的財産権審判において注意すべき若干の法律上の問題』には、「法定賠償金額の確定は、知的財産権の真の市場価値を十分に反映、実現するとともに、商標の顕著性?知名度、権利侵害行為の性質、侵害者の事業規模、納税状況及び主観的悪性の程度などに相応しなければならない」と規定されている。これらの地方司法機関による規定は、商標権者が関連事件を取り扱う際の根拠?参考になり、証拠準備の構想にも助けになると思われる。

        注: [1]出所:『長沙市中級人民法院知的財産権民事案件損害賠償額判定状況(2011—2015)』、中南財経政法大学知的財産権研究センターによる『知的財産権侵害損害賠償案例実証研究報告』、『浙江省知的財産権民事司法保護報告(2015)』。