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    労働分野における信義誠実原則の適用

    『労働契約法』第3条では、労働契約を締結する際、信義誠実の原則を遵守すべきことが規定されている。又、同法第26条によると、詐欺の方法で労働契約を締結した場合は、相応の部分は無効となる。上述の規定は信義誠実の原則を労働契約分野に適用する主な法的根拠である。

    但し、従業員が入社時に虚偽情報を提供した行為に対して、使用者が、上述の規定に基づき労働契約の無効を主張する、或いは会社の関連規則制度に基づき、信義誠実原則の違反を理由に、解雇を実施した場合、司法機関が必ずにもそれを認めるとは限らない。例えば、2019年広州中級裁判所が公表した女性従業員権益保護典型裁判例のうち、以下の事例があった。女性従業員が既婚の事実を隠して入社したため、使用者は当該従業員との労働契約を一方的に解除した。結果、裁判所より不当解雇と認定された。又、多くの使用者が関連規則制度で、虚偽の学歴証明、履歴書を提供する行為を解雇の対象と規定していても、個別事案での判決結果にはばらつきがあり、解雇の正当性を認められたケースもあれば、不当解雇と認定されたケースもある。

    では、使用者は、如何にして把握すべきか?

    『労働契約法』第8条によると、従業員が事実通りに使用者に説明しておくべきことは、労働契約に直接関係する基本的状況に限られる。婚姻状況、生育状況などの個人情報は労働契約に直接関係するわけではなく、事実通りに説明しておくべき「基本的状況」に該当しない。従業員の健康状態、知識程度、教育程度、職業技能、職務履歴、職業資格などは「基本的状況」と認定される可能性が高い。但し、個別事案において、司法機関は往々に職務、要求、労働契約履行へ影響を及ぼす要素を総合的に考慮した上で判断する。例えば、使用者は、会計士として採用した従業員が虚偽の公認会計士登録証書を提供したことを理由に、係る従業員を解雇した場合、司法機関に認められる可能性は高い。その場合に、資格証書は採用の可否を判断するにあたって決定的又は重要な要素である。

    実務において、学歴詐称をした従業員を解雇できるか否かについては、はっきり判断できるケースもあれば、判断しにくいケースもある。例えば、運搬作業員の場合は、仮に学歴詐称をしたとしても、学歴が採用の可否を判断するにあたって決定的要素ではないため、解雇の正当性が認められる可能性は低い。逆に学歴を必要採用条件の一つとした職務の場合は、例えば、使用者が、数年にわたって素晴らしい業績を収める従業員の学歴詐称が発覚した後、単に学歴詐称が信義誠実原則に違反したことを理由に当該従業員を解雇する場合、解雇の正当性が認められるか否かは不確実性が高い。 (2014)通中民終字第0758号事件では、勤続年数が10年以上の従業員が学歴詐称により解雇されたが、裁判所は、「使用者は従業員の資格に対して注意をもって慎重に審査する義務がある。学歴詐称が労働契約の効力に対する影響は合理的な期間に限定される必要があり、労働関係が長く継続した後もなお学歴詐称を労働契約の無効又は解除の事由とするべきではない。」と指摘した。一方、(2016) 滬01民終12926号事件では、学歴詐称を理由に12年も働いていた従業員を解雇した使用者の行為に対して、裁判所は、「従業員は信義誠実の原則に違反したので、使用者による労働契約解除は不合理ではない」と判断した。実務において、従業員に他の規律違反行為が同時に存在する場合(特に信義誠実や道徳に係る場合)は、合わせて処分事由とすることで、相応のリスクを低減できると思われる。

    従業員が在職中に虚偽の病気休暇や虚偽の実費精算など、信義誠実の原則に違反した行為について、社則制度では「信義誠実の原則に違反した従業員に対して解雇処分を行うことができる」ことが定められている場合は、会社による解雇が裁判所に認められる可能性は比較的高い。しかし、前述の2019年広州中級裁判所が公表した女性従業員権益保護典型裁判例において、裁判所が指摘したように、「労働契約の解除は従業員の基本的生存権のみならず、名誉ないし将来の就職にも係わるため、使用者は従業員を多少は容認するべきである」。要するに、詐称の程度を慎重に考慮する必要があり、、比較的軽微である場合は、まず軽い処分及び教育を行い、問題が再度起こった際に、解雇したほうが妥当だと思われる。

    なお、従業員が使用者と社会保険料を納付しない、或いは低基準で納付することを約定したにも関わらず数年後に使用者が損害賠償金を主張した場合は、通常、裁判所は、従業員が信義誠実の原則に違反したと判断し、従業員の請求を認めない。

    今年より新たに施行し始めた『民法典』第7条では、信義誠実の原則を基本原则としている。主流派の観点により、信義誠実の原則に違反した行為に対する懲罰が認められやすい傾向にある。