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    商標共存合意書に対する司法観点の変化

        商標登録の出願にあたり、『商標法』第30条の「他人の同一の商品や類似の商品について既に登録された又は初歩査定された商標と同一又は類似する」という規定に該当するため、許可されないケースはよく見られる。

        出願者は係る標識をすでに長期に亘って使用している、又はそれれまでに人力と財力を大量に投入して広告宣伝を行ってきた場合、出願者は往々に、再審査、さらに行政訴訟を提起し、係る商標登録が最終的に許可されるよう努力する。この場合に、多くの出願者は引証商標の所有者と商標共存合意書を締結し、又は引証商標の所有者からの商標共存同意書(以下「商標共存合意書」という)を取得することを求める。

        商標共存合意書の効力については、商標審査委員会と裁判所の観点とペースにバラつきがある。 

        商標審査委員会は2007年に商標共存合意書について検討を行ったところ、「先行登録された商標又は初歩査定された商標を保護し、商標権利衝突を防止することは、『商標法』第28条(注:現行商標法第30条)の立法目的の一つである。従って、当事者間の共存合意書を全く考慮しないのは合理性に欠く。」ことを肯定したにもかかわらず、「消費者の利益を保護し、混淆を防止することは第28条の立法目的の一つであれば、中国『商標法』の立法主旨の一つでもある。共存を許可するか否かは、消費者が当事者双方の商標を見分けられるか否か、共存が消費者の混淆を招くか否かを考慮する必要がある。」ことを主張した。そのため、商標審査委員会は、「当事者双方の商標を使用した商品の類似性、商標自体の類似性及び双方各自の知名度」と「双方商標の知名度」の2つの要素を総合的に考慮した上で、商標登録再審査の請求を認めるか否かを判断する。」ことを強調した。実務において、商標審査委員会はむやみに商標共存合意書を許可するのではなく、商標共存合意書を許可するか否かを厳格に判断している。 

        商標共存合意書に対する裁判所の観点は、紆余曲折しており、かつ変化しているいるようである。「良子」商標行政訴訟事件において、北京高級人民法院による(2009)高行終字第141号判決書では、「商標審査委員会の決定を維持する」という北京第一中級人民法院の一審判決を覆した。2011年11月最高人民法院は当該案件の再審理において第二審判決を肯定し、「係争商標を取り消すことは、明らかに商標共存合意書で約定された利益バランス及び数年間で形成されている市場構造を破壊、山東良子社にとって不公平である。」と指摘した。これをきっかけに、第二審判決が第一審判決を覆し、商標共存合意書の効力を認めた裁判例はいくつか出た(例えば(2011)高行終字第1717号、(2013)高行終字第958号、(2014)高行(知)終字第3024号等)。それらの判決は「商標共存合意書は商標所有者が私権に対する処分である」、「商標共存合意書は商標類似の有無を判断し、又は混淆を招く可能性を排除するための重要な根拠である」、「引証商標権利者発行の商標共存合意書により関連公衆の利益が損害を被ることを証明できる証拠はない」ことを強調した。又、出願者と引証商標権利者が株式支配関係を有することなども、商標共存合意書の効力が認められる重要な理由となる。

        2015年末~2016年、裁判所の観点は変わり、「私権の処分」と「消費者の利益保護」のどちらを強調するかについて、意見の食い違いが出た。2015年末、北京知的財産権法院は(2015)京知行初字第4950号判決において、「商標権侵害に係る訴訟手続において、商標権侵害を訴えられた当事者は権利者の許可を有する限り、権利侵害責任を免除される。但し、商標権という私権に対する当該当事者の処分は、社会の公共利益を損ねてはならない。商標権付与?確認手続においては、商標出願者又は後続の商標権者が先行の商標権者と商標共存合意書を締結する限り、後続商標の登録が許可される場合は、商標権付与審査制度の価値は実際に発揮できなくなる。従って、商標共存合意書は消費者の混淆を招く可能性を排除する重要な証拠に過ぎず、後続商標の登録許可の当然の根拠にはならない。商標共存合意書により、商品の出所に対する公衆の混淆を招く可能性を排除できなければ、商標の共存は商標の識別機能の発揮に不利となり、消費者の権利を損ない、『商標法』における消費者権利保護の立法主旨に合致しない。この場合、商標共存合意書は後続商標の登録許可の当然の根拠にならない。」と指摘した。但し、2016年4月「ブルーバード」商標事件に係わる(2016)京行終1597号判決書において、北京高級人民法院は前述の旧観点を採り、私権処分への尊重を強調した。同年10月、「AgrEvo」商標事件において、北京高級裁判所による(2016)京行終3683号判決書では、新観点を採納した。

        2016年以降の判決において、裁判所は消費者利益に対する保護を重視する傾向が明らかで、商標の共存により消費者の混淆を招く可能性を重点的に考慮し、「2つの商標で、それぞれの指定商品が同一、又はほぼ差異がなく、商標自体にも識別しやすい差異がない場合に、先行の商標権者が当該2つの商標の共存に同意しても、後続商標の登録を許可しなくてもよい」((2018)京行終257号判決書、(2018)京73行初4435号判決書等参照)」という基本観点を示し、商標共存合意書の効力を判断する基準は厳格化傾向が見られる。

        以上のことから、商標共存合意書により後続商標登録許可を求める場合は、下記の問題を重点的に確認すべきである。(1)係争商標と引証商標の表示には区別が存在するか否か。(2)係争商標と引証商標の権利主体が関連会社であるか否か。(3)商標共存合意書により消費者の混淆を招き、消費者の利益を損ねる可能性があるか否か(例えば、引証商標所有者が将来において使用しないなど)。上記の問題に対して、いずれも「YES」と答える場合は、商標共存合意書を商標再審査の申立理由とし、それらの問題に対する分析を商標共存合意書に合理的に反映することが考えられる。