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    従業員が精神疾患に罹患した場合は、労災と認定されるのか?

        A社の営業担当者の張さんはうつ病に罹患したと診断された後、A社に対し「うつ病は仕事のストレスによるもので、労災に該当する」と主張し、労災待遇を要求したが、A社は、精神疾患が『労災保険条例』で規定される労災の範囲に属さないと判断し、張さんの要求を拒否した。その結果双方の間で紛争が起きた。 

        実務において、日増しに激しくなり競争社会の中で、生活リズムもあわただしく加速するにつれて、従業員が精神疾患に罹患するケースが増えている。従業員がうつ病、精神分裂症等の精神疾患に罹患した場合は、労災に該当するか?

        『労災保険条例』第1条及び第14条によると、労災は、①業務上の事由により事故に遭い負傷した場合、と②職業病に罹患した場合の2種に分けられる。職業病については、『職業病防治法』では、職業病とは、業務の遂行に当たり、粉じん、放射性物質とその他有毒・有害因子に触れることにより患った疾病をさすことを明確に規定している。従って、職業病には精神疾患が含まれていない。一方で、「業務上の事由により事故に遭い負傷した」については、「事故に遭う」が負傷の前提であるため、従業員が業務上の事由により事故に遭い、これによって精神疾患に罹患した場合に限って、労災と認定される。例えば、従業員が会社の財物を守るために、社内で頭を負傷し、脳損傷になったことにより、精神分裂症に罹患した場合、労災に該当すると思われる。

        よって、中国の現行法令に基づくと、精神疾患による労災の認定は大変厳しいものといえる。文面から見ると、職業病を除けば、「事故がない限り労災はない」というのが、労災認定の基本的原則とされている。長期にわたって仕事のストレスが大きいか又は労働時間が長い、休憩時間が不足すること等による精神疾患は、労災と認定されない。

        但し、実務において、現行の規定が突破される可能性はあると考えられる。

        民法の因果関係からみて、負傷の発生が業務上の事由によるものであることを証明できるならば、労災と認定される。つまり、因果関係の「因」は、事故でもあるし、長期的な疲労や精神抑圧などでもある。一部の国では、事故以外の業務上の事由による精神疾患を労災と認めている。例えば、日本では、「特定のプロジェクト・業務により仕事内容と仕事量が急増し、ストレスの重さに耐えられない」、「侮辱やいじめや暴力を受ける」などにより精神疾患に罹患し、労災と認定されるケースは年間数百件もある。

        中国の司法機関も、この問題について、「機械的に法律を適用する」から、「法理に基づき個別事件について臨機応変に判断する」に変化している傾向が見られる。例えば、鉄道会社の従業員の楊さんに係る労働紛争事件においては、楊さんは勤務において頭が鉄棒に当たった後、精神障害が生じ、半月後、妻と子供を切りつけ、自殺した。北京第一中級裁判所は、『労災保険条例』における「自殺の場合は労災と認定されない」という文面を突破し、楊さんが自殺する際の精神状態は頭の負傷によるもので、当該精神状態にある楊さんの自殺行為と業務上の事由による頭の負傷に因果関係があり、労災と認定すべきであると判断した。

        中国の立法の現状と司法実務の傾向から見て、企業は下記の問題に注意すべきであると思われる。

        先ず、事故により精神疾患に罹患するリスクを抑えること。従業員が業務中に事故に遭い、頭、頸などが負傷した場合は、企業は従業員に対し関連検査を適時に受けるよう要求すべきである。そうすれば、従業員への配慮を表す一方、神経損傷による精神疾患に罹患するリスクを下げることができる。

        次に、精神疾患と業務との関連性。因果関係があると認定されるリスクを下げるために、精神疾患に罹患した又は罹患しうる従業員に対して、可能な限りで過多な残業、重要な又は緊急の業務をさせない。又、関連従業員の精神疾患が遺伝によるものであるか、又は業務以外の重大な異変によるものであるかに注意を払い、関連証拠を収集する。